とらじろうの箱。

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【ひらめき☆マンガ教室】第1回課題・自己紹介 ネーム感想編その3【第4期】

第1回課題・自己紹介

はじめに

 ぼくがどのようなスタンスでネームを読んでいるか、などの説明は以前の記事に詳しいのでそちらを参照していただければ幸いです。

toraziro-27.hatenablog.com

  『その3』では『その2』に引き続き、10人の方の感想を載せたいと思います。『その2』については下記の記事を参照してください。

toraziro-27.hatenablog.com

作品を読んだ環境

ノートPCのchromeブラウザでスクロールを利用して読みました。画像をクリックして1ページ毎に表示される形式では読んでいない、と言うことです。

 以下、本題。

作品への感想

『「いただきます」が言えなくて。』作者:ahee

 一番にネームアピールへ触れたくなるのは初めてですが、『(自己紹介と言うことなので)生死観や人生観がテーマになるんだろうと思いつつ』というのがとても印象に残りました。

 漫画についてはお父さんのキャラが立っていることと、大きなコマ割りで情報が適度に制限された環境で進むことからか、とても読みやすかったです。8ページにある、暗いコマの中で死んだ魚の目がぼんやりと光るコマは独特でとても良かったです。

 9ページの回想へ向かうコマでも片目がアップになり、どこか現実に焦点の合わない様子が描かれているようでとても魅力的でした。お父さんの表情も百面相がごとく大胆に変化するので読んでいて非常に面白いです。

 一方で、二人の関係性(親と子供だと思いますが)はもっと早く提示してくれていると1ページと2ページの受け止め方が変わると思いました。実際、ぼくは初めの内、二人は兄弟なのだと思って読んでいました。(ぼくが「VRゲームをやる父親」という像に親しくなかったこともあると思います。)

 大元の話になってしまいますが、この話の中で自己紹介=生死観or人生観だと考えた過程のようなものが見えてくるとより一層ユニークな漫画になるのではないかと感じました。今提出されているネームだけでも十分に面白いのですが、今回の課題が『自己紹介漫画』だということを考えると、aheeさんの独特な感性が描かれているとより面白いなぁと思います。

 あくまでぼく視点からの話にはなりますが、自己紹介=生死観or人生観だと考えた事そのものがとってもユニークだし、aheeさんをよりよく表しているエピソードなんじゃないかと感じます。それと、この漫画だけだとどうしても『父親紹介の漫画』に読めてしまうと思うのです。

 ネームアピールによると『父が好きなので――』とあります。漫画の終わりを『こんな父のことがぼくは好きだ』という流れにもっていくだけでグッと『自己紹介漫画』として読むことが出来るのではないかと思いました。

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『宇宙人との180分』作者:iyutani

 パワフルな子供に振り回される中で知らない自分に気づかされる様が良く描けていて、教育実習で子供たちと触れ合った時のことを思い出しました。おそらく大人になってから子供と触れ合ったことのある人になら、手広く響くような漫画になっているのだと思います。

 子供たちの登場シーンがとっても好きです、何を考えているのか分からない表情で飴をなめながらこちらをじっと見つめているのはそれこそ『宇宙人』感があり、異生物感が良く現れているように思います。また、主人公君がなんだかんだ言いながら子供たちの面倒を見るシーンからは、文句を垂れながらも真面目な一面が垣間見えてキャラクターの深さが演出されているように見えます。

 全体の構成についてですが、冒頭2ページの役割がいまいちよく分からないように感じました。子供たちとの話を描くことに焦点を当てた漫画だと捉えるとどうしても不必要に見えるので、おそらく主人公君の一面をあらわすためのシーンだと思います。ですが、ぼくにはここから何を読み取れば良いのかがはっきりとはわかりませんでした。

 冒頭のシーンがどこからの帰り道なのか、人の視線のどういったものが苦手なのか(あるいは1ページで描かれている視線がどのようなものなのか)が描かれていると、ぼくでもこのページで言いたかったことが読み取れるのではないかと感じました。

 あと、最終ページの主人公君が涙を流すコマはとてもすてきだと思います。その一方で次のコマではすぐに笑顔で手を振るシーンが描かれており、少しさっぱりしすぎているような印象を受けました。涙の余韻がないというか、思わず泣いてしまったという出来事に対して、もう一つ応答が入り込んでいると「この子はこの出来事に対してこう感じたんだ」と読者が必要以上に解釈を挟むことなく受け止めることが出来るのではないかと思いました。

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『イケメンを創りたい!』作者:真田圭

 真田さんが何に突き動かされ、何を求めていて、最終的にどうありたいのかが明確に表現されていて、漫画をどう使いたいのかが非常に良く分かった気がします。

 カヲル君、格好いいですよね。シャツin似合いすぎ。

 ネームアピールでも書かれていますが、正直に言うと、途中からかなりカオスになっていて「何を描いているのかは分かるけど、何を言いたいのかが掴みにくいなぁ」と感じました。

 一方でどのページも結論はとてもしっかりしているように見えました。そのため、結論に至るまでの過程をもう少し読者に提示出来たらガラリと印象が変わるのではないかなぁ、とも思います。

 カヲル君の魅力についてはとても具体的、かつ、分かりやすく説明できているように見えます。なのでそんな感じで、どうして自分は自分の絵に『趣味全開』だと突っ込みを入れてしまうのか、どうして『キャラクターが動いてしゃべってくれないと意味がない』と感じたのかをさかのぼって考えてみると、第三者の視点から見ても真田さんの思考の足跡をたどりやすいのではないかと思います。

 これだけひとえに『イケメン』への思いを募らせ、何か形にしたいという熱量があるのは素晴らしい才能だと思います。『イケメン』そのものへの関心と同様に、なぜその要素が『イケメン』に見えるのか、ある記号や要素が『イケメン』に見えるように演出しているのは何か、など、イケメンを多角的にとらえ直したうえで、その結果を漫画に乗せると第三者にも理解がしやすい構成になるのではないかと感じます。

 自分の<好き>がはっきりとしているのは表現者としてすごく羨ましいですし、とっても素敵な長所になるはずです。

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『わたしとマンガ』作者:こぐまあや

 絵がまとまっていて、何を書いてるのかが非常に分かりやすいので漫画としてもとても読みやすく感じました。登場人物の行動についても「ある出来事に対し、どう判断した結果こう動いた」と言うことがかなり明確に描かれているのでスーッと物語に入っていけるし、人物と視線を重ね合わせ易かったです。

 意図して描いているのかは分かりませんが、この子は相談を全くしない子なんですね。個人的には「相談を全くしない」というのはキャラ立ちとして十分有力に働きそうなので、もし意図的なキャラ付けならそこに触れるような展開が少しでも入ると、より主人公の生き方と言うか、あり方が掴みやすいのではないかと感じました。

 全体的にとてもまとまりが良くて、ほとんど取り上げるようなことが思いつきません。読んでいて引っ掛かったというか、分かりにくいと感じたのは7ページの『また 逃げて しまった』くらいだと思います。『自己紹介漫画』なのでこういう視点を無理して入れる必要もないとは思うのですが、「下手だと思ってしまった漫画を見せるのをやめたこと」と「自分の好きなものを隠すこと(言い出せないこと)」は本来別物のはずなので、どうやってそれが交差してしまったのかが描けているとヤバイものが出てきた感爆増だったと思います。

 最終ページにある1コマ目が一番のキメ場だと感じたのですが、前ページからの流れを受けて髪が少し乱れている等、動きの後の静を感じるコマになっていた方がより効果的になる様な気がします。この子のキャラとして顔に両手を当てて、じっと過去を見つめるようにしながら泣く構図はとてもしっくりくるのですが、その直前のあわただしい山場を引きずる様な絵になっているとめっちゃ泣いたような気がしました。ある種の自己完結感が強いコマのように見えたと言ってもいいのかもしれません。相談をしない子として造形されていることとつながる様な気もします。

 「なんとなく分かる」の連続で、正直、この完成度を前にすると変なことしか言えなくなるくらいにまとまっている作品だと思います。おかしな感想になっていてごめんなさい。この漫画にきちんと感想を打ち返せるように精進します。

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『からっぽのリアリスト』作者:コバヤシ

 1コマ目から場面状況が非常に分かりやすく、キャラクターの置かれた状況をクリアに理解することが出来ました。咲良の造形とタバコの組み合わせも短いページ数で読者に必要な情報を与えるのにふさわしい組み合わせだと思います。

 決めたいコマの中でキャラクターにどんなポーズを取らせるかが明確に見えているように感じ、ペン入れした際にはどんな力強い場面が出来上がるのだろうとドキドキしながら読ませていただきました。

 オタク受けする(と言うとかなり語弊のある表現になってしまいますが)キャラクターを描くのにすごく魅力的な線をしているように思います。ここは好みの部分でもあるので人によりけりでしょうが、ぼくは2ページの『… 久しぶり』のコマに描かれた表情だけでグッとくるものがありました。

 一方で、間の取り方にはかなり独特なものを感じて、すこし、コバヤシさんが意図したような空気感ではこちらに伝わってきていないような気がします。カナが咲良の告白を受けて引き下がるシーンと、聞き耳を立てていて頬を叩きに来るシーンはかなり間が短いように読めてしまいました。コバヤシさんの描かれるキャラクターは表情にものすごく力があるので、もしかするともっと間と顔で語らせるコマがあっても良いのかもしれないなぁと感じました。

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『不思議としか言いようのない気分なんだ』作者:kubota

 1ページで現在の状況と、それに対する主人公の立ち位置が明確に分かるので説明的なモノローグも違和感なく受け止めることが出来ました。激おこオジサンのデフォルメが良い感じに可愛くて好きです。

 ネームアピールで書かれていた『「本田選手を見ると不思議な感じがする」』というのは本田選手=有名人と置き換え可能であり、案外普遍性のある感覚なのではないかと思います。したがって、かつての自分と現在の有名人を比較して描く最後の4ページで意図したような感覚は十分に伝わって来たと思います。

 一方で、正直に書かせてもらうと、ネームアピールで『一番の狙いは――』と書かれていた部分の驚きは全く感じることが出来ませんでした。主人公が決定的に無関心を貫いているために、本田選手に印象を持っていかれた理由が全く分からなかったからです。ヤジに対して睨むようなシーンも挿入されていますが、その行為は選手側にとってかなり当たり前のことであり、『本田圭佑』である必然性を感じないので、この話の中で主人公がなぜ本田選手にこだわりを持つのかが分かりませんでした。

 興味のない身近な場所で出会った誰かが有名になっていった時の不思議な感覚を伝えたいのであれば、興味のなかった頃へ重きを置くより、興味のなかった状態から自分の生活に入り込んでくる過程を描く方が伝わるのではないかと思いました。おそらく、主人公の無関心が一貫しているので、読者としても見開きドーン!をされただけでは驚かない構造になっているのではないかと思います。

 主人公の感情と読者の感情がリンクしない構造で驚きを与えるのは難しいのではないかと感じました。見開きで主人公が正面向いて目を合わせていない中でも読者には驚きを与えたい、というのはすごく難しそうに思えます。

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『たからもの』作者:つまようじ

 主人公と友達の行動原理がはっきりとしているので物語の大筋を見失うことなく最後まで読み切ることが出来ました。ギャグマンガのように展開するコマ運びは提出作の中では珍しく、とても刺激的で新鮮さが際立つように思います。提出作品をまとめて読んでいるのもあって、『たからもの』の雰囲気にはとてもリラックスさせていただきました。

 ストーリー漫画としては違和感なく読むことが出来ますが、『自己紹介漫画』になっているかどうかは微妙なところだと思いました。冒頭でモノローグなどを差し込んで『小学生の頃の私はペットが飼いたくても飼えない思いを絵本にすることで昇華していた』などの状況説明があると良いのかもしれないです。

 申し訳ないのですが、ぼく自身がギャグマンガにあまり触れて来ておらずリテラシーが低いのでコマ割りや展開について「こう感じた」というような感想があまり出てきませんでした。ただ、『学校にセグウェイ持ってくんなー』はめっちゃ好きです。

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『ラストワン』作者:西岡京

 童話のような雰囲気がある漫画で、ペン入れされたものをはやく読んでみたいです。このテイストの話だと絵柄でかなり左右されそうなので(ネームアピールでも書かれていますが)絵柄をどうするか、と言うのは大切な所だと思いました。

 冒頭3ページと終わり3ページの流れは非常に良く理解できた反面、率直に書かせていただくと、ほかのページについては何が書かれているのか分からないところがいくつかありました。この分からなさは漫画の作りとかコマ割りの構造とかの話ではなくて、モノローグで使われている言い回しとか、そういう類の分からなさのように思えます。

 例えば4ページの説明を受けて、ぼくは「ああ、叔父はいま行方不明なんだな」と受け取ったのですが、6ページでは叔父が登場しており、この展開があまりよく理解できませんでした。おそらく、どこかの段階で時系列が変化したのだろうと思いますが、その変化を読み取ることが難しかったです。もっと具体的に言えば『私の様子をみて 察したのか 叔父は言った』というモノローグはどれが私の様子で、なぜ叔父がそこにいて、何を察したのかを読み取ることが出来なかったです。

 一方で物語を俯瞰してみると、展開が王道的なものでもあるので、何を描きたかったのかは伝わってきました。一度、日本語を整理して前後の流れの中で台詞やモノローグを作り直してみると途端に分かりやすくなるのではないかと思います。

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『たまごOLたまこ』作者:畑こんにゃく

 タイトルがキャッチーな反面、オフィスモノで『あるある』のように幅広く共感を得られるモチーフ選びだと思いました。

 エッセイ漫画的な作りで日常的な出来事と、それに対する自身の反応や感じたことを描いてあるので『自己紹介漫画』としては非常に受け止めやすいものだと感じます。

 表の声と裏の声のギャップもいい感じで、嫌いな上司と接するときの思いや『心のスイッチOFFモード』などは読者も思わず共感するポイントであると感じました。

 漫画的な作りについては、文字を吹き出しに収めたり、コマ線と重ならないように配置していただけるとネームとしても読みやすく、何を描いているのかがより第三者に伝わりやすくなるのではないかと思いました。

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『ゆいのランドセル』作者:pote(ぽて)

 導入がスムーズな点とゆいが可愛いので、止まることなく最後まで読み進めてしまいました。何より反応がとても分かりやすく表現してあるので、ゆいのキャラクターが掴みやすく、8ページという短さながらもゆいってこういう人間なのかも、というある種の説得力を持って存在感を感じました。

 ファミレスでのシーンも友達の机とゆいの机とで明確に違いがあり、キャラクターを立てるのがとても上手なんだと思いました。出来事に対してキャラクターを応答させるのがとてもうまくてリズムよく読み進められます。

 うーむ……。特に気になるところはないんですがこのままだとマイルールが壊れてしまう……。6ページの『……へぇ…』はちょっと違和感あるので、『……へぇ』の方が自然に感じる……かも…。

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おわりに

 今回取り上げた10個のネームはとてもバラエティに富んでいて、改めて漫画の凄まじい多様性を感じる時間になりました。それと同時に、ぼくが今まで漫画のごく一部にしか触れて来ていなかったことを痛感します。

 一部の感想でも書きましたが、ぼくが読みなれておらず、リテラシーの低い分野の漫画についてはこれといったものを書くことが出来ず、本当に申し訳ないです。

 それにしても皆さん本当にレベルが高いです。多くの作品が課題文で提示されていることの一歩先のことを無意識に実行しているのではないかと思います。

 さてさて。残るネームもあとわずかになりました。

 それでは、また次の感想でお会いしましょう。

 興味のある方は以前の記事も是非お読みください。

 

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