とらじろうの箱。

自分でプレイしたゲームや、読んだ漫画や本などについて書いています。なお、このブログではAmazonのアソシエイトとして、適格販売により収入を得ています。

【ひらめき☆マンガ教室】第1回課題・自己紹介 完成原稿感想編【第4期】

第1回課題・自己紹介

前置きがあるので、読み飛ばしたい方は目次からお好きな場所にお飛びください。

はじめに

 ひらマン4期聴講生の「とらじろう」と申します。今回は第1回ネーム講評会を受けて製作された完成原稿へのコメントを書いていこうと思います。

 今後変更があるかもしれませんが、以下に本エントリーの構造を示します。

  1. 課題文の要約
    どんな漫画をどういう風に書いてほしいと言われたのか、ぼくなりに一言か二言でまとめます。
  2. 何を意識して作品を読んだか
    2つ3つほどの要素を提示します。その点については意識的に読み取ろうとして読んだよ、という意思表示です。
  3. 作品を読んだ環境
    PCで読んだ、とか、スマホで読んだ、A4に印刷して読んだ、とかそういう奴です。ひらマンでは『誰に向けて描いたのか』が大切だと思うので漫画がどのような媒体に掲載されるのか(どのような環境で読まれたのか)は大きな要素であると考えてこの欄を設けます。
  4. 作品へのコメント
    エントリーの本丸ですね。長くなり過ぎないように心がけますがシンプルに作品へのコメントを描きます。ただし、少なくとも一つは「ここはこうした方が良いのでは?」的なことを書くつもりでいます。

*今回は提出された作品があるたびに更新していく方式をとります。以前の形式では提出作品へのコメントが複数の記事に分散してしまい、すべてを読むのが面倒になっていたからです。それを是正するための変更だとご理解いただければ幸いです。*

課題文の要約

 第1回については愚直に『自己紹介を、具体的には「あなたの実際に経験したことと、それに対する感情を使って物語を描く」というやり方でや』る、という文言そのものが要だとしました。

何を意識して作品を読んだか

 第一には「”物語”になっているか」です。一口に”物語”と言っても難しいですが、ここでは<ある出来事に対しての応答が描かれており、その前後の変化が明確に示されているもの>を物語として定義します。ただし、<変化する機会ではあったが、あえて変化しなかった>というものも物語に含みます。

 二つ目は「使われている言い回しの通りが良いか」です。ネーム提出に際して講師の方から漫画的技法についてのコメントはたくさん頂いたことと思います。提出作品は全体的にレベルが高くマンガとしての質が高い一方、文字に目を向けると日本語としてのつながりがおかしかったり、少し通りの悪い言い回しの使われている場面が目立ったように感じました。そこで今回は意識的に日本語としての通りやすさを意識しながら完成原稿を読むことにしました。

作品を読んだ環境

 ノートPCのchromeブラウザでスクロールを利用して読みました。ブラウザの最大表示で見開きが確認できる形式で読んでいます。

 導入が長くなりましたが、以下、コメントへ。

作品へのコメント

『リアルとフィクションの狭間』作者:あまこう

 「エロマンガ家の主人公が、一般人の姉とすれ違い会話バトルする話」として読みました。

 話のテーマが整理されて読みやすかったです。主人公と姉の会話は基本的にすれ違いながらも姉妹という関係性からか、ギスギスすることなく展開していく様が非常に面白いと感じました。また背景が書き込まれていることで、キャラクターの構図やカメラワークが非常に生きているように思いました。特に8ページ~9ページまでのカメラワーク及び構図はきちんと椅子や机やその他小物が書き込まれているからこそ生きてくるものだと感じます。絵が上手いのももちろんなのですが、パッと見て目が飽きない漫画でした。大胆にカメラが動く一方で、7ページでは固定したカメラとコマ割りを生かし、姉と主人公とのすれ違いや温度差をおもしろく表現できていて、また違ったリズム感を楽しめました。

 ”生”感のある台詞の応酬によって二人の会話が生き生きとしてくる反面、文字だけを追っているとどの言葉がどの言葉にかかっているのかわかりにくい部分がありました。具体的には6ページにある姉の『それはない』などです。主人公の台詞を受けてのモノですが『そうなんだよ――』から始まる主人公の台詞には否定できる要素が複数あり、『それはない』の指示するものが少し不明瞭に読めてしまいました。生身の相手が目の前にいて肉声を聞きながらならわかることでも、文字での応酬になると伝わらない場合もあるので、そのあたりを捕捉しながら台詞を入れていくと良いのかなぁと感じました。

 4ページの『私がエロ漫画家って知ってるなら 察してくれよ~~っ!』の部分は読んでいて疑問を感じます。エロ漫画家とホラーの関係が次ページに行くまで分からないのと、ここを不明確にしたまま話が続く必然性が無いように読めてしまったからです。またこのページは文字の種類が多く、変に目の滑る感覚がありました。書き文字の『私がエロ漫画家って――』の部分はカットしても次ページにはつながるので、視線誘導的にもここはない方が読みやすいのかもしれないなと感じました。

 話の流れに関して、5ページと6ページのつながりをつかむことが難しかったです。『雄っぱいが非現実的と言われたこととカテゴリー分けが充実していること』のつながりが分かりにくかった、と言い換えてもいいのかもしれません。おそらく、表紙を見たら中身に予想が付くんだから『雄っぱいものって分かれよ!』というコマだと思いますが、そうだとすると前後の流れの中でその情報が浮いていて必要のない情報のように感じました。

 誤植かもしれませんが8ページの『実際に大学の友人で親くらいの男性と交際してたしね』は意味が通りにくいので『実際に大学の友人は親くらいの――』とした方が良いように思います。同じく8ページの中段右のコマ『この組み合わせは――』はここだけ書き言葉調子になっているのでどちらかに統一すると良いように感じました。加えてこのページの1コマ目で主人公の眼鏡が外れ、髪形も変わっていますが、初見時はそれに気づかず最終コマで新キャラが出てきたのかと誤読してしまいました。目の周りの装飾品や髪形はキャラクターに同一性を与えるうえで重要なパーツだと思います。変更がある際にはよりわかりやすいように表現されていた方が良いのかもしれないと感じました。

 それにしても多彩なアングルでキャラが描かれていますね……。今回は登場人物の入れ替わりもなく、部屋の中で話が進むために引きの絵は少ないですがおそらく多様な表現ができるんだと思います。ぜひ、あまこうさんの絵で様々なジャンルのお話を読んでみたいと思いました。

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『葛藤の修行生活』作者:俗人ちん

 「寺に産まれた大学生が、就活を始める話」として読みました。

 第一に完成稿を提出されていることが素晴らしいです! ぼくもマンガを描こうとしたことがありますが、完成稿までもっていくのは非常に大変なことだと思います。マンガを描いた経験がないということでしたが、16ページあるマンガを完成稿まで仕上げたのはそれだけで称賛されるだけの価値があると心から思います。

 オチが就活にまで延長されていて、主人公の葛藤とその乗り越えを描いたマンガなんだなと分かりやすかったです。加えて主人公が修行に対して乗り気じゃないというのが冒頭に来たこともあって主題が明確になったのもあると思います。アピール文で3D素材の使い方を気にしていましたが、今回の完成稿は外の風景は書き込まれていて、室内は書き込みが少ないというある種の統一感があったので読んでいる分にはほとんど気になりませんでした。

 そして、すみません。今回の完成稿は各々のコマが独立していて何ページか、マンガとして読みにくいところがありました。正直、ネームの方が面白かったです。主人公の心情が吹き出しであったりモノローグであったり特殊吹き出しであったりと多様に描かれていましたがそこに統一感や必然性を感じず、上滑りしていく感覚がありました。

 講評会で『修行話なのか葛藤ドラマなのかが分離している』と指摘されたことと『(キャラの立っている)長谷川さんが帰ればよかった』というのを受けての変更だと思います。ですがネームの時よりも長谷川さんのキャラが立っておらず下山(ギャップ)が効いてこないのと、完成稿では主人公の転向が単に指導僧に説教された結果のように読めてしまい「こんなんで説得されちゃうのか」感がありました。

 おそらく講評会では、下山するキャラは主人公の葛藤を刺激するキーキャラクターなのでキャラの立っている子にさせた方が読者として面白い、という話がされていたんだと思います。修行話と葛藤ドラマの関係についても、修行話と葛藤ドラマに関連がなく(修行の中身を説明するだけの)修行話パートと、(ヒトとの会話だけで成立する)葛藤ドラマパートとに分かれてしまっている、という指摘だったのではないかと思います。今回のように変更するのであればネームで長谷川さんが持っていた元社会人エピソードを指導僧に付け加えたり、長谷川さんの真面目エピソードをもう少し挟んだ後で下山させることが必要だったんじゃないかと思いました。

 一方で全体としては冒頭の変更によってマンガ全体のまとまりはかなり出てきたように感じました。またマンガを描いたことが無いという話でしたが、講評会を受けてネームに変更を入れたこと、ペン入れをきちんと終えたこと、その段階で漫画として違和感がないことはとてもすごいことだと思います。加えて背景や小物についても3D素材を使っているとはいえ、それらが無ければいけないコマをきちんと分かっているように感じましたし、読者に違和感のない範囲で人物のコピー&ペースト使うなど、今できることを最大限に利用してきちんとペン入れを仕上げいて素晴らしいのは疑いがありません。

 ぜひ、次にお会いした際にはこの完成稿についてお話しさせてください。

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『漫画を描きたい』作者:かずみ

 「自己表現に悩む女の子が、マンガに救われる話」として読みました。

 かずみさんのマンガは絵が入ると雰囲気が出ますね! もちろんネームの時の線も愛らしいものでしたが、ペン入れの線はすごく「キャラクター然とした線」だと感じました。そのために人物についてもロボットについても線そのものがキャラクターを想起させるのでとてもマンガらしい仕上がりになっていると思います。(アニメーションからの影響があるのでしょうか?)

 ロボットと主人公との具体的なエピソードが挿入されることで主人公とロボットの関係性がより深く理解できるように読めました。ロボットがキャラクターとして立ち上がってきていてすごく愛着が湧きます。オチについても微笑ましいもので、読後感が爽やかになっていると感じました。全体的に変更された部分が良い方向に働いていていると思います。もともと見せ場を描くのはうまかったですが、完成稿の7ページから9ページの流れは誇張ではなく心を動かされました。

 細かいことになりますが、1ページの1コマ目の本棚はもう少し透明度を下げても良いのかもしれないです。1コマ目ではお友達とその手にあるマンガが重い情報だと思うのですが、ここでは本棚と手に持っている本が同じ情報(線)で描いてあり、目線が多少左に寄りすぎてしまうように感じました。同じく1ページの3コマ目や下段のコマでは上手に情報がコントロールされているのでそれらと同じようにすれば(細かい話ではありますが)より読みやすくなるのではないかと思います。

 4ページの下段、『でも口下手だし――』から『それだ!!』の間に1コマ、間を開けるコマが欲しいように感じるのですが、このページは比較的細かくコマが割られているので難しいところだと思いました。ややもすると『それだ!!』をなくして(ロボットと主人公の間にある)『!』だけのほうが読みやすいのかもしれない……。多分これはぼくが「気づき=!」と「納得=それだ!!」を別の段階として処理しているからだと思います。今のように『それだ!!』と『!』が同じコマにあると、異なる工程が同時に処理されているように見えて違和感があるのだと思います。

 2ページ下段にある『やっぱり私の自己表現は漫画だな』はもしかすると人によっては何を言っているのか分かりにくい言い回しなのかもしれません。冒頭の流れを受けると『漫画でなら思ったことが伝えられるなぁ』ということだと思いますが、『自己表現』となるとこの漫画で要求される以上に対象が広くなってしまうきらいがあるように思います。

 落ち込んだ主人公がロボットに励まされるシーンはとてもグッときました。ロボットの実感をすごく感じます。かずみさんの線はとても魅力的なので、キャラクターらしいキャラクターの出てくるマンガを読んでみたいです!

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『母は迷探偵』作者:片橋真名

 「価値観の合わない娘と母が、お互いを認め合う?話」として読みました。

 親の何気ない発言に対してモヤっとする感じや職場での陰口と上手く距離が取れない感じなど、とても共感する部分が多く、引き込まれて読みました。職場でのイライラをウチに持ち帰って母親に当たってしまうシーンなどは思わず心が痛くなる程でした。

 前半4ページで主人公と母の距離感がぱっととらえやすかったです。そしてとても絵が上手いですね! 主人公の表情変化がとてもつかみやすく、コマ単位でどういう表情を伝えたいのかがはっきりしているので読んでいてストレスが少ないです。

 コマ割り(演出)も多彩で目が飽きないのはもちろんなのですが、その多彩さがすごく効果的に働いていて驚くばかりです。ネームでも触れた5ページ下段のコマ割りもそうなのですが、個人的には3ページ下段のモノローグの入れ方や背景処理の仕方は内容ととてもマッチして感じました。

 ちょっとここに関しては自分でも理由が分からなくて申し訳ないんですが、動揺などの表現として主人公の瞳が白抜きになった絵に違和感を抱きました。コマ単体で見ると感じないモノなのですが、漫画全体としてみるとこの処理がされたコマだけ異質な絵に見えてしまいました。

 アピール文にある『「周囲に馴染めないことに引け目を感じている」』という部分についてですが、そこについてはもう少し大胆に描いていても良いのかなと感じます。主人公と他者との間に距離のあることは十分に伝わってきました。その一方で主人公はその壁に対して一定の理屈を持っているので、引け目が布一枚かぶさった状態で提示されているように思えて、人によっては『「周囲に馴染めないことに引け目を感じている」』ところまでは読み取りにくいのではないかと感じました。

 オチが変わったことでそれまでの話を受けてのモノになっているので、作品としてとてもまとまりが出たように感じます。やはりネーム時のようにトピックを増やし過ぎると慌てた雰囲気がでてしまうのかもしれません。今回の話は8ページですが、欲を言うと母親との出来事を経たことで、主人公が職場でどう変化するのかを見てみたいなぁと感じました。今のオチの前に職場での話が挿入されているものも読んでみたいなぁと……。

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灯台もとヒツジ』作者:シバ

 「アイドル好きの主人公が、ヒツジに出会ってライブに行く話」として読みました。

 憧れというテーマがはっきりとしていて、導入や締めも分かりやすいので非常に楽しく読ませていただきました。すごくいい。好きです。主人公は没個性的ですが、そのかわりに周りのキャラクターが色濃くキャラを感じるので相対的に主人公の立ち位置も分かりました。やっぱりぼくは個人的にすっごくシバさんのキャラクターが好きです。ヒツジもすごく可愛らしく思えます。線とキャラクター造形がマッチしていると言えばいいんでしょうか。

 仕事で疲れている主人公の話なので人によってはかなりヘビーに感じてしまうものだとは思うのですが、この漫画はすごくコミカルに描かれていて主人公のしんどさに共感しながらも楽しんで読めるような作りになっているのがとても良いと感じました。

 全体的にすごく好みのマンガなのですが、その一方でアピールと見比べるとシバさんの描きたいことが十分に表現できていないのかな、とも感じます。ヒツジと出会って憧れの場所に行けることは描けていると思います。ですが、『行きたいけど行けない』感じや、『ヒツジがこの世にいない』感じや、『ヒツジが「憧れの場所」を代替品を自分で作って暮らしている』感じは完成稿からはあまり伝わっていない様に思いました。部分部分を取り上げてみれば描きたいことと表現とが一致していますが、それが漫画を読んだときに読者の眼前に立ち上がってきているかどうかというと微妙なラインだと思います。16ページで表現するには少しトピックが多いのかもしれませんし、もしかすると押し出したいことをもっとストレートに描く部分を増やしてもいいのかもしれないと感じました。

 今回のマンガは物語として一段落ついていてとてもまとまりがあると思います。主人公の不能が早い段階で提示され、その不能を解消する形で漫画が終わっているからです。ただ最終的に不能の解消が単に「休みを取る」という、ややもすると拍子抜けするような解決策に終わってしまっているのでいち読者のわがままとしてはもう少し劇的なものが見たかったのかなぁと思いました。

 今回の変更はとっても好きです。ネームに比べて非常にマンガとして読みやすくなているし、ストーリーもかなり通りが良くなっていると思います。シバさんのマンガはモチーフでわかりにくくなっている部分があるのはある種事実だと思うのですが、その一方でモチーフが描かれているシーンの絵はほかの場面と見比べても非常に魅力的だと思います。ここのバランスをとるのが難しい部分なのだとは思いますが、この絵とモチーフに対する思い入れは非常に強い武器になると思うので、ぜひそこへ極振りしたようなマンガも一度読んでみたいです!

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『I am a Snoozer』作者:横たくみ

 「うだつの上がらないバイト店員が、一念発起する話」として読みました。

 すごく線が好きです。キャラと背景の線がそこまで区別されていないという見方もできるのかもしれませんが、このキャラと背景が同一層にある描き方は、この漫画の主人公やテーマにマッチしていると感じたのでぼくはすごく良いと思いました。

 物語としてすごく筋が通っていて、その上で漫画としてもきれいに成立しているのでとても読みやすい上に、多くの人が違和感なく読めるのではないかと思います。その一方でネーム講評会で言われていたことと重なりますが、まだ物語の山場が弱いようにも感じました。プロットで盛り上げることもできるとは思うのですが、ぼくとしては大ゴマの使い方が気になりました。物語的に意味のある大ゴマが主人公の一念発起にのみ使われている点と、それが後半に集中している点が特に違和感があったのだと思います。

 主人公が前を向く場面で大ゴマが来るのはとてもよく分かるし、読んでいても気持ちは良いです。ですが、その大ゴマを生かすために谷となる部分でも大ゴマが欲しいと感じました。具体的に言えば、4ページと5ページの部分では主人公が陰口を聞いてしまい、現実と向き合わなくてはならなくなる非常に落ち込む部分だ思うのですが、ここで大ゴマを使ってもいいんじゃないかと思いました。今のままでも淡々とボディブローを打たれるようなじわじわとした痛みは感じるのですが、おそらくここで主人公が感じた痛みはもっとキツイものなのではないかと考えました。

 ただやっぱりプロットは凄く綺麗で、物語の中で扱っているテーマも多くの人にアプローチできるようなものだと思います。そのターゲットにはもちろんぼくも入っていて、主人公のうだつの上がらなさや、一歩先に進んで見える後輩の一言で奮起する物語はとても心に訴えるものがありました。

 ふり幅を出す方法は様々なアプローチがあると思います。是非一度、精一杯ふり幅のある横たくみさんのマンガを読みたいです。

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『かわいい好きには』作者:藤原白白

 「マンガ大好き少女が、あこがれを開放する話」として読みました。

  心象風景をマンガとして表現するのがとてもうまくて、主人公と友達との間に溝ができたときの急転直下感や、自分の想いを心の隅に押しやった時の表現は真に迫るものがあり、読んでいるだけでこちらの心もチクリとするような感覚がありました。

 また、少女漫画風の力強い瞳や魅せるべき絵の強さは圧巻だと思います。特に2ページや15ページなどの一枚で見せるページは特に絵の強さが際立っていて非常に魅力的です。作者の年代を感じる作品内容ですが主人公の心情に寄り添う形で当時の出来事が提示されており、その時代を知らない読者にも主人公の心の動きが理解できるように描かれているのではないかと感じました。

 一方で、やはりマンガの基本が80年代前後の少女漫画に近い作りになっているので少し古臭いというか、時代を感じる漫画に映る部分はあるのかもしれないなと思います。ペン入れについては今後いろいろ試してみたいということでしたので、思い切ったチャレンジをしてみてもいいのかもしれないですね。

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『たからもの』作者:つまようじ

 「気の弱い女の子が、意地悪な女の子と一緒に絵本を作るまでの話」として読みました。

 感情が表に出てくるシーンでの表情がとても魅力的だと思います。他にもマンガ的な表現を上手に使っている場面があり(具体的には2ページのりかちゃん登場シーンや、5ページの最後2コマなど)、そのおかげで後半はスムーズに女の子二人の感情に寄り添うことが出来たように感じました。

 あったかい気持ちになりますね。二人で楽しく絵本を作っていてほしいです。

 後半のストーリーがハートフルなために、前半部分のギャグが妙に浮いて見えるような感じがしました。ギャグ単体で見れば確かに面白いのですが今回のマンガは読後感がすごく穏やかで人の温もりを感じるものになっているからか、こういったギャグとは分離してしまうのではないかと思います。

 その一方でこの漫画の背景処理はギャグマンガ的なところが多く、前半のギャグ演出がないと6ページの5コマ目や最終ページの最終コマを自然に受け入れられないのではないかとも感じました。個性があり、不思議な漫画だと思います。講義の中などではギャグマンガが描きたく、第1回課題で出したこの手のマンガを描きたいのかどうかははっきりしていないとおっしゃっていたように思います。

 描ける描けないで言えば、今回のようにハートフルなお話も、お好きだというギャグマンガも十分描くことが出来る方なんじゃないかと感じました。ただし、今回のマンガではギャグとほっこり感がどっちつかずになってしまっているのは否めないと思います。この違和感について、ぼくとしては、ギャグ界にいるのがリカちゃんだけで主人公ちゃんは普通界の住人として描かれているからじゃないかと感じています。

 描かれている女の子はとても可愛らしいですし、ギャグとハートフルさの違和感を除けば全体のストーリーはすごくきちんと作れていると思います。台詞も基本的にマンガとして違和感のない長さや言い回しが使われていますし、マンガとして成立しています。一度、ギャグかストーリーか、どちらかに大きく舵を切ったマンガも読んでみたいです!

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『どうせゾンビ』作者:くたくた

 「疲れた人間が、半端者ゾンビとして再出発する話」として読みました。

 何度読んでも設定が面白く、そこへ丁寧に丁寧に作られた物語がのっかっているので本当に読みやすいです。設定が、主人公たちの物語ときちんとリンクしたうえで説得力を出すために作られているものだと読んでいて伝わるので、非常に要点を抑えやすいマンガだと感じました。ともすれば重くなりがちなテーマを描いているのにカラスが妙に可愛かったり、固有名にすこし茶目っ気があったり、要所要所でガス抜きするような笑いが含まれたりと読者を意識してストレスができる限り薄くなるように作られているマンガだと思います。

 また基本的に一つ一つのコマに対する画面構成が非常に上手で(映画好きということでしたが、その影響でしょうか)、一人の読者として巧みに物語へ誘導されている感覚があり、思わずうなる程でした。この点については意識的なものか分かりませんが、先輩との出会いと会話の場面ではキャラクターを中心にして背景が後退するのに対し、物語後半の二人がゾンビとしての現実に直面して再出発を志すにあたってはキャラクターと背景が再び同じレイヤーとして処理してあることに驚きます。

 全体的にすごく映画的な画面作りがされた漫画だと感じました。だからこそ世界構成と物語との重なりが浮き上がりやすく、テーマや意図を比較的明確に読み取れるマンガとして出来上がっているのだと思います。

 漫画的表現としてはネーム段階のように、ゾンビになった人間の目元にはクマのようなものがあった方が良いとも感じました。ですがこの物語、――結局人間であろうとゾンビであろうと変わらずに自分(たち)の生活があるだけなのだ。そして今は二人でその生活を再出発できるのだ、という物語――であるのならばゾンビと人間は同列で扱われるべきであり、クマは不要だと思いました。(ゾンビ的不死にフォーカスが当たるのであれば断然クマがあった方が良いと思いますが、今回のマンガでは意図的にゾンビにも死があることが強調されていますね。)

 正直、このコメントが示しているようにマンガとして十分に読めているので描かれていることに対する解釈や指摘を行えてしまうのですよね……。確かにところどころを取り上げれば不自然or唐突に感じる部分もあるのですが、それもどうにもならないものではないと感じます。

 例えば、8ページに描かれる先輩の怒りは読者的にはあまりにも唐突だし、このシーンによってどう先輩のキャラクターが掘り下げられたのかが弱いとは思います。他にも11ページにある先輩の描写、小さかった腕の傷が広がっている描写は回想ページの中の小さいコマでさりげなく触れるにとどめられているため、読んでいて重要視されずに見落とされてしまい、二人に対する「ゾンビ的死」の印象が弱いなど、あるにはありますがそれを十分補えるほどに16ページマンガとして美しくまとめられていると感じました。

 とにかく、絵作り、画面構成がめちゃくちゃにうまいですね。

 様々な舞台で、くたくたさんのマンガを読みたいです。

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『「いただきます」が言えなくて。』作者:ahee

 「里帰りした女の子が、お父さんとお刺身を食べる話」として読みました。

 冒頭からアクロバティックに書き文字が使われていますが、それが妙にしっくりきていてとても引き込まれます。ともすると「ありえない」と言われても仕方がない様な使い方なのかもしれませんが、少なくともぼくは気に入っています。アニメ化もした『映像研には手を出すな!』という漫画でもこの手の表現が使われていましたね。全体的に書き文字、音の表現がとても良いと思います。オノマトペが可愛くて、すごく世界観を感じます。

 2ページの部屋の灯りをつける表現もこれから物語が始まるんだ! という予感を与えて非常にワクワクします。とても演出が上手くて要所要所で新鮮な表現が入るので読んでいるだけで楽しいマンガでした。これはほかの聴講生に言われて気の付いたことですが、吹き出しが付いていたり過度なデフォルメが効いていたりとこのマンガでは魚がキャラクター化していますね。これもマンガの統一感をもたらしている要因だと思います。お父さんがかなりキャラクターチックなので、そのお父さんと不気味ながらも近しいもの(畏れのある存在?)として魚が振る舞うのであればこのようにキャラクターとして描かれているのが相応しいのかもしれません。刺身になるとキャラクターではなくなりますしね。

 お父さんのキャラが立っていてすごく面白いです。その中で魚を中心に独特の生死観が説明されていますが、主人公の突込みがメリハリを生んでくれているので読者としてもその独特さをきちんと受け止められるように思います。お父さんの動きも面白くて、5ページの『ここにまだ、この、』はどうにも表現しあぐねている感じが伝わってくるし、愛らしくさえ感じます。
 全体的に少し吹き出しによる視線誘導が緩いのではないかと感じました。高さの揃っている吹き出しが多く、場所によってはコマ全体に視線がいかないまま次のコマへ誘導されているところもあるように思います。また、大ゴマのインパクトがそれほど強くないと感じました。そういう漫画だということでスルーしても良いかと思ったのですが、ネームアピールに『コマを割るのはまだ自分には早いだろう』と描かれているので、意識的にインパクトの大きい大ゴマを使ってみても良いのかもしれないと考えました。

 グロテスクなシーンもありますが、デフォルメされた姿で描かれているのでそこまで強烈には感じませんし、それなりに多くの方が読めるのではないかと感じました。絵に対する表現力というか、自分が感じていることや考えていることのニュアンスを絵に落とし込むのが非常にうまいのだと思います。是非、次の作品をお待ちしております。

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『雪うさぎ、つくる』作者:柴田舞美

「引っ越して来たばかりの女の子が、雪うさぎに出会う話」として読みました。

 1ページがすでにかなり良いです。足跡を見るだけで女の子の性格や立場が分かるし、台詞回しもとてもグッときます。女の子の台詞に何とも言えないリアリティがあって、台詞を追うだけでも女の子の息づかいを感じました。女の子がきちんとキャラクターになっているおかげで読者は安心して女の子に物語をゆだねる事が出来るように思います。

 すごくいい話でした。引っ越して来たばかりでお友達もいない女の子が一人で大きな雪うさぎを作ることそのものにグッとくるのもあるのですが、溶けた雪うさぎの描写が非常に心に来ます。また、雪うさぎ君のデザインもとても愛らしく、女の子と会話する場面にも違和感がありませんでした。5ページの2コマ目など絵が非常に力強く、どんどん物語に引き込まれます。少し話がずれますが、3ページで女の子が雪うさぎを抱えていることにはもうちょっとフォーカスしても良かったかも。
 お母さんとの描写(3ページ)に少し違和感がありました。アピール文にある通り、忙しくて女の子の相手が出来ずまともに取り合ってくれない描写として読むことはできます。ですが、お母さんが女の子の方を一度も向かないことや父親の描写がないこと、加えてその後の展開である種唐突に「死」がテーマになることもあって、少し不穏な雰囲気を感じてしまいました。ネームの段階では「死」の話題の前振りとして『きのう生まれたばっかで』というモノローグあったので雪うさぎの話として完結して読むことが出来たのですが、それが無くなったことで変に想像力が働きすぎる作りになっているのかもしれないということです。取り立てる程でもないのかもしれませんが、このマンガはとても素晴らしいのでこういう細かいところが気になったのだと思います。

 ところどころ(2-3、8-9など)場面転換が微妙に完成していなくてマンガ的に飛びすぎる部分があるとは感じましたが、それを補って余りあるほどにストーリーと線の持つ味が良いので最後までだれることなく読み切れてしまいました。そして女の子の孤独感がとても素晴らしく表現できている。それこそ繰り返しになりますが、1ページの舞台設定がすぐれていて、画面構成も良いのでそこだけで伝わって来るものがあります。一方で、8ページに描かれるお友達が少しさりげなさすぎるのかなぁとも感じました。これはこのページの中で経過している一年という時間を、読者がきちんと受け取っていないから出てくる違和感なのかもしれません。

 演出がとても上手ですね。1ページ、2ページのコマをまたがってページ全体で雪が降っている表現や、7ページの描き方など幻想的な雰囲気があってとても素敵です。

 全体的に吹き出しがコマに対して上半分に固まる様な配置が多く、その上でキャラクターの顔の位置などによる視線誘導も微妙に弱いのでコマによっては見落としがあったり、吹き出しを読み飛ばしてしまうようなレイアウトになっている部分もあったのでないかと感じました。少し気を付けてみると良いのかもしれないと思います。

 例えば、2ページの『んー…』と女の子が腕を組むコマなどは、場合によっては読み落とされてしまうのかもしれません。コマなし1コマ目の吹き出し『でーきた!』→女の子の表情→雪うさぎの顔と視線誘導された結果『おまえの名前、ぴょん吉ね!』の近くまで視界が及んでしまい、『んー…』を読むにしても『お前の名前、――』を見てから遡って読み直すような導線があるように感じます。

 正直、かなりマンガに引き込まれてしまったのでコメントを残すのが難しいほどでした。絵柄の安定についてもぼくとしては全然気になりませんでしたし、また次の作品を読むのが非常に楽しみです!!

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『たまごOLたまこ』作者:畑こんにゃく

 「OLの卵であるたまこが、圧力強め系上司にボクササイズで対抗する話」として読みました。

 登場人物が限られており、ストーリーとしてもたまこと上司の話に的が絞られているので非常に読みやすかったです! 絵柄も可愛らしく、たまこはもちろん同僚の女の子も可愛かったですし、上司の憎らしい笑い方も良かったと思います。また、たまこに対してきちんと『スキが多く、アホっぽい』とキャラが確立したことに加え、同僚の女の子がそこにきちんと突込みを入れてくれるのでとてもテンポよくストレスもなく読むことが出来ました。

 同僚の女の子が本当に役割を果たしていて、4ページや10ページがとても良かったです。女の子の助言を受けながらも一度挫折し、落ち込んでいたところにボクササイズで救われるというのも物語になっていて面白い。

 少し言い回しの気になるところがありました。1ページの2コマ目、『私の同期 新卒入社三か月目 いわばOLのたまご』は誰のモノローグなのか多少分かりにくいのと、主人公の名前「たまこ」と新人という意味での「たまご」が(意図的なのは解るのですが)両方とも平仮名で書かれているので誤読する可能性が高いなぁと感じます。タイトルが『たまごOLたまこ』であることもあって、OLという言葉が先に来ると「たまご」ではなく「たまこ」を連想してしまいました。タイトルはひらがなのままにして、この場面では漢字を使うと誤読が少なくなるのかもしれません。

 それにしても課長の登場シーンが良いですね。同僚と愚痴っていたところにスっと現れてくれるので読者としても「あぁ、たまこ! また怒られるぞ!」と期待が膨らみます。口ではかなわない上司に対してボクササイズで心理的有利を自分の中に捏造して対抗する、というお話自体にユーモアがあり面白かったです。『いままできちんと漫画を仕上げたことがな』いとのことでしたが、今回の完成稿はペン入れもきちんとできていて、マンガとしての統一感もあるし、なによりとても面白かったです。

 次の作品を心から楽しみにおまちしております~!

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『空と伯爵』作者:田山

 「Tくんが悶々とする話」として読みました。

 めっちゃ面白いです! 少し変なTくんの話とみんなに尊敬されていた伯爵の話が平行して続いてく形式の、ある種アクロバティックなマンガですが一つ一つの話で伝えたいことがきちんとまとまっているので違和感なく読むことが出来ました。

 あとは絵がとても可愛らしいですね。T君のキャラ造形が魅力的です。

 中学英語で躓いているのにちゃっかりほどほどの大学に入ったらしく、そこまでダメ人間には見えないのですが、占い師にカモられてる『前世』がめっちゃくちゃ効いててT君の愛嬌あるダメ感がとても落ち着きます。『T君は占われた』っていう導入も主体性が欠片もなくてよかったです。兄も優しいし。T君、爵位を受け入れてるし。面白い。

 T君が結構前向きに見えるんですが、おそらくここはあまり意識されていないんだろうと思います。

 さて、アピール文で書かれていることですが、誤解を恐れずに書くといろいろ間違っていると思います。ですが、その間違いこそがこのマンガの面白さのキモとなる部分のはずなので、一読者であるぼくとしてはこの部分をより伸ばして一般読者に分かる様な形(例えば突込みが存在するなど)で示してほしいなぁと感じます。

 このマンガでアピール文にある様な事が読者に伝わるかどうかという観点で言うと、十中八九伝わらないと思います。ですが、大切なのはそこではなく、伝わる伝わらないとは全く関係なくこのマンガは面白いのです。具体的に書くと、まずアピール文で書いてある『凡庸』という言葉は恐らく世間一般の「凡庸」と異なり、ものすごく田山ナイズされた『凡庸』です。そしてこのマンガはこの「田山ナイズされた世界」に満ちています。世間一般的には「凡庸」と「ダメなやつ」は別カテゴリーですし、国語辞典的な意味でもそうなっているはずです。一番顕著なのは『偉大な感情』という言葉でしょうか。 ですが! このように田山さんにとっては普通のことでもぼくたち読者にとっては意外性のあることなのでこのマンガはめちゃくちゃ面白いのです!! そして『Tくん:伯爵』の対比は普通『凡人:天才』にスライドされません。なぜなら、Tくんはダメなやつで社会的地位もないやつとして描かれていて、伯爵は社会的地位が高いからです。ここに『凡人:天才』の対比を重ねてもそもそもTくんと伯爵は身分から何から何まで違うので『凡人:天才』の対比には全くなりません。そのほかの要素が二人の間で異なりすぎているからです。

 重ねて誤解を恐れずに書きますが、田山さんのマンガは「描きたいことと、実際に描かれていることがめっちゃずれている」から面白いマンガだと、少なくともぼくはそう感じています。

 是非、この路線のまま面白いマンガを描いてください。少なくともぼくはそのマンガをめちゃくちゃ読みたいと感じています。形式としてのマンガがきちんと成立しているのですごく読みやすいです。次回作をお待ちしております。

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『わたしとマンガ』作者:こぐまあや

 「幼いころに蹴っ飛ばした気持ちを、眩しく見える友人が解放してくれる話」として読みました。

 主人公の女の子が変に素直というか、キチンと感情表現をしているので以前お話しされていたような『なんでもない様な人のふとした一言で救われるような』話には思えませんでした。というのも完成稿のように主人公が感情を表に出していることで金井の無能感というか、「ああこいつ、主人公の”虚無”に気づいてないんだろうな」という雰囲気が無くなり、主人公の変化になんとなく気づいて追いかけているんだなぁと見えてしまったからです。以下のコメントはその前提で、「特別な人から救われた話」を読んだとして書いていきます。

 幼いころの出来事で自分が得意だと思っていたことを表に出さなくなるも、自分の中ではなんとなく引きずってしまっているという描写はとて人間を捉えていて、心が動かされるお話だと感じました。まさしく5ページで描かれているように、ある瞬間から目の輝きを失うことは大なり小なりあり得ることだと思います。そんな中でなんとなく歳を重ねていくうちに出会ってしまった、自分とは違う存在、「好きを表に出せる人」の近くを離れることが出来ない主人公の造形がすごいと感じました。

 登場人物の掘り下げ、ディティールの作り込みがすごい反面、マンガの構造としてはそのディティールの精度に追いつけていない部分があるように感じます。

 4ページの『それなら宿題して』から連続する主人公の顔アップは2コマともに汗を描かれているので、回想を挟んだとは言っても5ページの『……確かに』が急速過ぎて読者から離れているように感じました。おそらく、連続したコマの後者の表情を変えるか、汗を消すかすると主人公のしぶしぶ感が減るのだと思います。このしぶしぶ感があると『もともと自己肯定感が低かったのでただ納得した』の『ただ納得した』に対して「本当にそうなの?」と反射的に感じてしまいました。

 6ページで映研の面々を『変人集団』として扱っている意味があまり生きて来ていない様にも感じます。おそらく、創作や何かをやっている、あるいはプロでもないのに何かに熱を上げている人々は一般からは「変人」として扱われている、という意味を持たせたい表現だとは思うのですが、主人公は単に金井に憧れているし、自分の持つマンガへの熱も捨てきれていないしで周りから「変人」に見えるからと言ってそれが物語に反映されているようには感じませんでした。

 加えて11ページに関して中段のコマを分けたうえで『……』と入れている部分ですが、吹き出しが左のコマに描かれた主人公の顔に遠くもなく近くもないので、主人公の顔と吹き出しがほぼ同時に見えてしまい、コマを分けている意味がある程、間が生まれていないように感じます。

 金井が特別な人として機能しているように読めてしまう、という話と同根なのですが、完成稿では最後のオチが弱いように思えました。

 マンガとして大きな躓きがなく、キチンと物語を追うことが出来ました。その結果としてこのようなコメントになったのだと思います。やり取りできる機会がありましたら、このマンガについてお話しさせてください。(7ページ下段の『この前も食堂で撮影してわ』は「してたわ」の脱字でしょうか?)
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『帰れないひとり』作者:のり漫

 「仕事場から帰ろうとしたら大ピンチでマリア様な話」として読みました。

 1ページから主人公の気合をスカされる展開ですでに面白いです。めくりであまりにも微妙な残高が表示されるのも面白いですし、だんだんとコマ割りが増えるにつれて展開が加速していく感じも主人公の追い詰められた感を演出していて非常にリズムよく、それでいて面白おかしく読み進められます。

 5ぺージまで主人公しかいないので無言で展開されている中で、夫が電話を取った後のめくりで唐突に『家に 帰れなくなりました』とあるのもとても可笑しかったです。『家に』と『帰れなくなりました』を分けて吹き出しにしているのも間を生んでいて、その後の『なんで』につながっているし、とてもテンポ感をコントロールできているように思います。

 満を持して手に入れた些細な幸せであるところのチロルチョコを落とすシーンが読者の期待通りである一方、15、16ページでひょんなことからマリア様になってしまう意外性まで詰め込まれていて本当に最後まで飽きない面白いマンガだと思います。

 ネームの段階では気になっていた同じ大きさのコマが連続してしまい目が滑る感じも、今回のように大きなコマが使われることによって感じなくなりました。おまけとして義理の弟のツイートがきちんとオチの機能を担っているのも良いと思います。

 いやぁ困った。単純にとても面白いことと、ぼくがある種エッセイっぽいマンガやギャグテイストの強いマンガを読みなれていないこともあって「マンガとして」どうこう、というのは殆ど気になる部分がありませんでした。強いて言うとすれば、1ページ目の早い段階で「この主人公は退職前夜なんだ」と分かればいいなぁと思います。

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『ラストワン』作者:西岡京

 「男の子が、少女の思い出と邂逅する話」として読みました。

 とても熱量があり、描きたいことや言いたいことがあるマンガなのだろうというのが読みながらに伝わって来る良いマンガでした。特に、主人公の回想に入ってから

(4ページ~9ページ)は非常に楽しく読みました。

 冒頭の1ページもとても力があり、風の吹きこむ窓に思わず吸い込まれるかのように物語へ引きずり込まれます。お母さん三姉妹の描写もとてもおかしくて、変に肩ひじを張ることなく読み進めることが出来たので、訛りの強い畑仕事をしている女性との邂逅シーンもそこまで違和感がなかったのかな、と思いました。

 4ページ~9ページでとても引き込まれただけに、2,3ページの少し展開が上滑りしていく感じが気になりました。2ページの『祖父の後 しばらく叔父が住んでいたが今は誰もいない』というのが「叔父が失踪した」という意味だと捕まえにくく、このページの最終コマを読んで「え、そういう話だったの?」と感じてしまいます。加えて、同じく2ページの5コマ目ですが、無理して不明瞭な言い回しをしなくてもいい部分なのではないかと思います。叔父というのが親の兄弟を指す言葉だと分かっていれば話の流れをつなげられるのかもしれませんが「女三人の姉弟に囲まれて、学者肌の叔父は孤立気だった」などの言い回しでも良いのかな、と感じました。

 その後の雰囲気が良いだけに3ぺージには唐突さを感じます。2ページが過度に説明的なのかもしれませんし、この流れの中で主人公が昔見た女の子を思い出す場面がないので急展開に映るのかもしれません。

 コマを無視して動物たちが配置される演出はとても幻想的で、男の子の感じた不思議さをよく表現できているなぁと思います。一方で、やはり日本語として通りの悪い表現が少し目立ったようにも感じました。例えば6ページですが、このページの中で二種類の『帰る』が同じ書き方で使われており、読者としては混乱してしまうポイントなのだと思います。

 伝えたいことが伝えたいように読者へ届いているのか、という点ではおそらくまだできることがあるマンガだとは感じました。ですがマンガのもつ熱量という意味では非常にそれが伝わってきます。この4月から描き始めたということですので、おそらくこのマンガが初めてのペン入れ作品になるのだと思います。西岡さんがペン入れをしたマンガを読むことが出来て、ぼくはとてもうれしいです。

 また次の作品をお待ちしております。
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『不思議としか言いようのない気分なんだ』作者:kubota

 記事に欄を設けている手前、心の底から申し訳ないのですが、何も言えることがありません。マンガとしてごく当たり前に読むことが出来るし、絵も上手いし、アクションもきちんと勢いがあって見える上に何が起きているのか分かるように描かれていると感じました。ネームの時にも書きましたが、やはり、少なくともぼくはこの見開きで驚くことはなかった、ということぐらいでしょうか。なにも書くことが出来ず本当にごめんなさい。

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おわりに

 今回はコメントを一つの記事にまとめるため、順不同で確認できた作品から更新していくような形式をとりました。以前のように分割するのとどちらがいいですかね……。あんまり記事が長くなると多少読み込みが重くなるようです。

 さて、今回は完成稿に対するコメントを書きました。ネームで見る線とペン入れされた線では重みや意味合いが変わってくるように感じます。また背景をどう処理するかなどで雰囲気や文脈の取り方が変化するのでマンガの難しさと面白さを味わいました。

 いやぁ、それにしても一か月でここまでマンガが上手くなるのか! と非常に驚いています。ネームの時には気づかなかったけどペン入れされると急に分かったことや、その反対にネームの時は分かったけどペン入れされたら違うように見えた、などいろんなことがありました。面白い。マンガって不思議ですね。

 

 今回からひらマンのサイクルが動き出しました。

 完成稿だけでなく、第二回課題のネームも楽しく読ませていただきます。

 それでは、次の記事でお会いしましょう。

*今回、意図的にではなく時間の都合でネームから変更をせず投稿されたペン入れ作品がありました。もちろん読んでいてコメントを書こうかとも考えたのですが、この記事の構成上取り扱うことが難しかったため今回はコメントの掲載を見送らせていただいております。大変申し訳ありません。*

 興味のある方は以前の記事も是非お読みください。

toraziro-27.hatenablog.com