とらじろうの箱。

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【放談】南方中華料理・南三、食べてきたよ。【NO.11】

はじめに

 恩師のご厚意にあずかり、先日、中華料理を食べてきました。

 とらじろうこと、わたくし。兼業とは言えど、2代3代と続く農家の生まれでございます。正直、美味い食事など気心の知れたもの――、などと天狗になっておりました。今となっては、お恥ずかしき事限りなし。ここに深く猛省いたす所存であります。

 料理と食材は全く別の概念でございました。わたくしにはそれが分かっていなかったのです。外食に馴染みなく育ってきた25年間でしたが、『南三』で食べたコース料理があまりにも美味しかったので記事にいたし申しました。

調理という概念

 以下に示すのは全くの個人的見解でございますが、生まれて初めて””調理”の何たるかを知る経験になりました。それまでは漠然と生きてきたのでございます。調理とは素材の味を生かすものだと、呑気に考えておりました。ところがどっこい、南三で出された最初の6品を味わったその瞬間、ボカン! と頭を殴られたような衝撃に襲われました。

 なんと申しましょうか、料理というモノは、素材の味を一度曖昧模糊につき進めてしまうようなのです。そうしたのち、パズルを組み立て直すように新たな本質を造り出すのでございます。

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 写真左下に写りますは、ホタテとアスパラのマスタード和えでございます。

 こちら、ぷっくりとしたホタテには深く焼きが入っておりますが、これが美味いのなんの。歯を立てた瞬間から薫る煙の臭いに思いを馳せていたのも束の間、ひと噛みふた噛みと続けるうちに貝の甘味とうま味が口の中に広がるのです。かと思えば、しつこくなる寸前でウェットなマスタードが酸味で、キュッ、と味を引き締めに参るのあります。

 はじめと終わりでは全く別の味わいでありながらも、食後にはひとまとまりの印象を残して嚥下されていく……。その振る舞いは宇宙とでも、生態系とでも呼びたくなる印象でございました。

 驚くあまりよく味わえなかったのかと、今度はホタテにアスパラを添えて口に運びました。するとどうでしょうか! よもやアスパラさえも、新たな生態系として料理の内側に取り込まれていくのでございます。貝の味わいと共に、素朴な畑を思わせるアスパラの食感は崖の上に立つ農民家屋を想像させるのです。

 咀嚼するごとに紡がれていく物語が、あまりにも自然に立ち現れていくその感覚を味わった時、不肖わたくしめも「なるほど、料理とはこういうものか」と天啓に打たれ申しました。

ワインとマリアージュ

 素敵なお料理には素敵なお酒が付きものなようで、贅沢なことに白ワインを料理の友にしておりました。普段、あまり酒を嗜まないもので、白ワインを満足に飲んだのはこれが初めてでございましたが、こちらもまた、驚きを与えてくださいました。

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 わたくしめは存じ上げなかったのでありますが、料理の世界には”マリアージュ”という概念があるのだそうです。デジタル大辞泉小学館)にて”マリアージュ”を引きますとこのようにありました。

  1.  結婚。婚姻。婚礼。

  2.  飲み物と料理の組み合わせが良いこと。特に、ワインと料理の組み合わせについていう。

 なるほど、料理の場合には2のような意味で用いるようです。今回、私は中華料理においてマリアージュを実践したわけでありますが、そのあまりの奥深さには感嘆いたしすばかりです。

 お料理それだけでもあふれんばかりの情報が詰め込まれておりました。が、そこにワインが添えられると、まるで天と地をひっくり返したかのように情報があわただしく活性化するのでございます。

 コース前半には南方系のスパイスを生かした料理が多く出されたため、お店の勧めもあり、飲み口はふんわりとした果実感をかもしつつも最後にはキリッとスパイスの風味が広がる白ワインを合わせておりました。

 そのすべてを伝えることはかなわないのでありますが、以下の写真にあります、キヌガサタケとベーコンのスープと白ワインの相性は抜群でございました。f:id:toraziro_27:20210909224232j:plain

 まずもってスープそのものが美味しいのですが、森と牧場のうま味の残るところへ、芳醇さを振りまくワインがマリアージュされますと、ぶわっと世界観が広がるのです。はじめの内は、確かにほのかに薄暗い森の中におりました。ところが佇むキヌガサタケの風味に酔いしれておると、いつの間にか、コショウやサンショウを思わせるスパイスに囲まれておるのです。秋を思わせる森の中に一筋の風が通ったかと思えば、芳醇な香りが喉を過ぎて胃に落ちてゆくのであります。

 マリアージュとはうまくいったもので、この調和はまさに結婚とでも呼びたくなるほど暖かで、幸せな感情を湧き上がらせました。

コース料理と物語

 長々と食の味わいについて書いてはまいりましたが、全体に共通して見られたのは物語でございます。

 コース料理とは、決められた品が決められた順番で提供される料理のことですが、これは確かに、一品もののお料理とは概念を異にするようです。確かに一品一品のクオリティーは高く、それだけで満足のいくものでございましたが、振り返ってみるとまた違った印象を残します。というのも、前後に提供された料理への移行を含めて食事体験が積み重ねられていることに気が付くのであります。

 初めの6品は味わい深くも、南方中華全体を思わせるような多様さと多彩さにあふれておりました。続いたのは肉詰め料理でしたが、こちらは前者を受けて、人々の賑わいを感じる屋台、食卓に意識を向けさせるものでした。こうして目線が”家”に振られたかと思うと、次はキヌガサタケとベーコンの合わせ技で少しの静寂さがもたらされます。そこからさらに舞う羽のようにして視点を広げさせられたのが、『サンマの春巻き』で、かと思えば一気呵成に南方全域を詰め込んだような料理が『ハモと熟成トマトのソース』であり、『きのこと牛タンのバナナの葉包み焼き』でありました。こうして面食らっているところを、また来てくださいね、と締めるのが『鮭といくらの炒飯』なのでございます。

 まるでアトラクションかのように次々と新鮮で驚きにあふれた体験が提供され、わたくしはてんてこ舞いでございました。

おわりに

 もしこのような経験をしたことが無い方がいらっしゃいますれば、皆様もぜひ、コース料理をお食べになってみてはいかがでしょうか。

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 美味しかったなぁ……。
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