とらじろうの箱。

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【ひらめき☆マンガ教室】第9回ネーム講評会 まとめ編【第4期】

第9回ネーム講評会を終えて

はじめに

 第9回ネーム講評会は、月刊誌のアフタヌーンで『ブルーピリオド』を連載中の山口つばささんがゲスト講師でした。今回は山口さんが講義と講評会を通してお話ししてくれた、取材とマンガについてまとめて行こうと思います。

 以下に要点をまとめました。

  1. 出し続ければ1割に入れる。
  2. ゾンビーバーを見よう。
  3. 外の価値観を意識する。

 山口さんは高校から美術系の進路に進み、絵の骨格はその中で築いてきたということでした。一方で、美術の道からマンガの道へ進む際にはその差異に戸惑ったこともあるそうです。四季賞で佳作に選ばれた後も、連載開始までにはある程度時間がかかっています。その中で担当編集者さんとのやり取りや、コミカライズを通して学んだたくさんのことを教えていただきました。

出し続ければ一割に入れる

 正規受講生のネーム講評を行う中で、『(自分の作品に対し)自信が無いために、(この作品は)ダメだ! ってなっているように思える』という話が出ていました。この流れの中で、自信を持つことに関連し『出すことが大事』なんだと言う展開がありました。その後、担当さんから聞いた事として『9割は(一回ボツにしたネームを)持ってこないらしい』と教えてくれました。

 もちろん気分が乗っていて自分の作品に対して自信を持ちながら提出できることは素晴らしいのですが、それ以前の問題として、出し続けることで可能になることがある。だから、嫌だと思ったり自信が無かったとしても出し続けることは非常に大事だということだと思います。これはひらマンでも毎回のように耳にするフレーズではありますが、やはり、今日におけるマンガの最前線で活躍するマンガ家から見てもそれは確かなようです。

ゾンビーバーを見よう

 連載開始以前のこととして、担当編集者さんとのやり取りで毎回躓いていたのが物語作りだったそうです。絵の技術は高校大学時代に、マンガの画面作り(コマ割りなど)は鋼の錬金術師(ガンガンコミックス・荒川弘)などのネーム模写で学んだとのことでした。一方でお話作りの勘所をつかみかねているような面があり、それについてはゾンビーバーという、いわゆるB級映画を見たときにピンときたらしいです。

 ゾンビーバーはその名の通り、ゾンビ物でビーバーが媒介者となるのですが、予算の関係か作りはかなりチープだそうです。ビーバーの目はLEDで光っていることが丸わかりなレベルです。その一方で脚本の屋台骨はしっかりしており、面白く見ることができた経験からゾンビーバーの構成を分析した結果、お話に必要な要素が見えてきたとのことでした。それ以前は、ご自身の言葉をかりれば「雰囲気モノ」を描いていたらしく、それが改善されたそうです。

 講義の際には力強く『ゾンビーバーはお勧め!』とおっしゃっていました。

外の価値観を意識する

 山口さんにとって、新海誠さんの『彼女と彼女の猫』をコミカライズ(アフタヌーンコミックス)したことが非常に大きな経験になったとのことでした。というのも、自分ではない誰かが作った作品にかかわる中で、自分からは絶対に出てこない価値観を学ぶことができたからだそうです(もちろん、このほかにも多くの学びがあったようです)。

 これは、山口さんが取材に重きを置く理由とも重なる考え方です。

 山口さんはご自身の持つ読者経験として、自身の価値観が変わったりとか「こういう価値観があるんだ」っていうのを知ったりできた際に「良かった」と感じるんだそうです。その上でご自身としても、読んだ人の価値観が変わるとか読んだ人への価値観の提案とかができれば、という思いがある。それはマンガの中のキャラクターや人間関係を含めて読者に伝えられるものだ、という話でした。

 そこで、取材は大きな存在感を持つのだそうです。

 つまり、取材は知識や事実を集めるために行うことももちろんあるが、同時に他人の価値観を自分の中に取り込むためにも非常に重要な役割を持っているということです。取材時に大変だったことやそれに伴う具体的なエピソードを聞いていく中で、その人の印象と自分自身の印象とが異なっている場合があります。それをどのように汲み取るかは別として、その経験自体がキャラクター個人の経験として生きてくるのだそうです。

おわりに

 というわけで第9回ネーム講評会まとめ編でした。カリキュラムとしてもいよいよ『応用』編。終盤です。そんな中で『取材して描く』というこの課題は何とも絶妙なのではないでしょうか。

 のちに公開予定の感想編でも少し触れると思いますが、ここにきてページ上限が変わった際に比較的多くの方がページ数を増やしていたようです。同人誌売り上げレースの特別公開授業が挟まる関係で普段より少しだけ作画期間は長いですが、完成稿提出日がどうなるのか気になるところです。

 この記事で触れたようなお話の他に、山口さんからは引用物をマンガに用いる際の工夫など非常に興味深いお話も飛び出しました。すべてをまとめることは叶いませんが、とても刺激的な時間だったように思います。

 さて、それではまた次の記事でお会いしましょう~。