とらじろうの箱。

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【ひらめき☆マンガ教室】第6回ネーム講評会 まとめ編【第4期】

第6回ネーム講評会を終えて

はじめに

 第6回ネーム講評会は、若くしてデビューし現在に至るまで商業誌で活躍を続ける水上悟志さんが講師です。今回は水上さんが講義と講評会を通してお話ししてくれたスケジュール管理、カメラ位置の意識に焦点を当てて記事にしていきます。

 以下に要点をまとめました。

  1. 自分の作業量を把握する。
  2. 余裕のあるスケジュールを組む。
  3. カメラとして読者を捉え、圧迫感を考える。

 今回は、メインの他に『提出不要な課題』として『「完成させるための計画」』を立てることがありました。講義の中でも、どうやってネームとペン入れのサイクルを回していくのかという話が何度も取り扱われています。

作業量を把握する

 水上さんは、『締め切り間際でギリギリになると逃げるなという実感がある』という表現で、長期間にわたってマンガを描く際に必要な心構えについて話してくださいました。

 スケジュールを立てること、あるいは、立てたスケジュールに則って作業を行うことが苦手だという人がいるかもしれません。水上さんは、『(計画通りに作業することが)得意というより、自分を信じていない』と言います。大事なのは、自分を追い詰めないように少しずつ、苦しくない範囲でやれるスケジュールを立てることだそうです。

 そのためには、自分がどんな体調でどんな気分なら、どんな作業をどのくらいできるのか。自分の作業量を把握していることが必要だとおしゃっていました。基本的には『体調が悪いときをベースにしてスケジュールを立て』るのだそうです。そうして、調子のいいときには先取りし、その分の余裕を後のスケジュールから削っていくような形で調整をします。

スケジュール通りにはならない

 スケジュールを立てる、となった時、「スケジュールが破綻したら終わりだ」という恐怖を覚える人もいるでしょう。ぼくなんかは、割とこういう思考をします。講義内でも、『スケジュールを立ててみたが、途中でアイデアにボツを出し、最終的には締め切り間際まで慌てることになってしまった』という声がありました。

 水上さんも、一度計画したスケジュールがとん挫した経験はあるそうです。一方で、基本的には最終締め切りの一か月前に(1月→2月→3月……という連載サイクルがあるとして、2月にあげる原稿は1月の締め切りに、3月にあげる原稿は2月の締め切りに)焦点を合わせているので、大きな問題になったことはないそうです。

 自分を追い詰めないためにも、スケジュールのオシリは、実際的な最終日よりも意図的に前倒しする必要がありそうです。

 以下はぼくの感想ですが、このような思考でスケジュール管理を行う際には、「締め切りまでにできたものが完成品」という踏ん切りをつけられるかどうかも重要なのではないかと感じました。月間にしろ、週間にしろ、連載を持つと定期的に締め切りがやってきます。そしてそこに穴をあけるというのは、仕事ができなかったということです。仮に、今のアイデアに引っ掛かりがあるとしても、仕事を受け持った以上、何かに優先順位を付けなければならないのではないでしょうか。

コマの大きさと、カメラ位置の考え方

 コマ割りについては、基本的には独学で身に着けたという水上さん。講義前に、ご自身のTwitterにも投稿がありましたが、基本的には『圧迫感』をキーワードに『アップ・引き』をコントロールしているそうです。

  カメラ位置を、読者の目の位置であると考え、アップには迫力があるものの、圧迫感もあり、多用すると読者のストレスを刺激するとのこと。カメラ位置に、読者の身体そのもが本当に存在するかのような感覚を持っているようです。

 また、読者のストレスをコントロールし、読みやすいマンガにする方法も教えてくださいました。ネームを切った後に、まずは読者として読み直すことが必要だそうです。その時にコツとなるのは、自分が原稿(あるいはネーム)にかけた労力を丸っと忘れてしまうこと。そうでないと、作業時の苦労を思い出し、なかなか修正する気になれないかもしれないからだそうです。読者にとって面白くないものは、スパッと落としていく。その決断に迷わないためにも、きちっと読者に成り切った状態で原稿を読み直すと良いのだとか。

 ちなみに、作者から読者の切り替えを行うには『寝るのが一番』だそうです。一晩寝るとたいていはきちんと読者の視点を持つことができるようです。

 作品の講評を行う中で、具体的なテクニックも教えていただきました。例えば、モノ狩りの冒頭ではアップをさけ、引きのコマや情報の分かるコマを入れないと読者が付いてこない。とか。

ペン入れに対する捉え方

 ひらマンでは、講義の最後に、次回講義において壇上で取り扱う作品を選んでいます。ここで選ばれたネームは「必ずペン入れをする作品」として扱われます。今回も選出がある予定だったのですが、水上さんは『ネームがかけたのであれば全部描こう』と断言。この際に、水上さんの持つ完成稿に対する考えをお聞きすることができました。

 水上さんは、『原稿にしないと分からないことがたくさんある』と言います。ご自身は、『ネームを描くのが好きでマンガを描いている。ペン入れは苦手』ともおっしゃっていました。そんな水上さんが『ネームを描いて、ペン入れして、そこでマンガを描くという行為が終わる』のだ、と。

 ペン入れをすることで、キャラクターについての思考が深まったり、アイデアがでてきたりすることがある。そして、ペン入れをするとかえってネームの質を上げる事にもつながるとのことでした。

 今回は、ネームをあげた全員が完成稿を描くことになりました。

おわりに

 水上さんのお話は、つねに具体的で実感のこもったものばかりでした。マンガ家として長いキャリアを持つ水上さんだからこそ言えることを、たくさんお聞きできたように思います。

 このブログでも、ひらマンの記事で「継続すること」について触れたことがありました。今回の講義には、実際に仕事としてあるいは自分の生活の一部として、マンガを取り込んでいく際の心構えとして大切なエッセンスが詰まっていたように思います。

 今期ひらマンの講義では初めてのパネル出演者、ということもあり、なかなか不思議な体験もできました。そのおかげか、講義まとめ記事として持っていたぼくの目線もどこか揺れ動いています。うーむ。

 第2サイクルに入り、少しずつ前半と色の違いを感じている今日この頃。

 それでは、また、次の記事でお会いしましょう。

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