とらじろうの箱。

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【ひらめき☆マンガ教室】第3回ネーム講評会 まとめ編【第4期】

第3回ネーム講評会を終えて

はじめに

 第3回ネーム講評会は、主に成年漫画誌で活躍している師走の翁さんが行ってくれました。今回は師走の翁さんが講義と講評会を通してお話ししてくれたマンガの描き方、ネーム勉強の仕方へ焦点を当てて記事にしていきます。

 以下に要点をまとめました。

  1. テーマは作家のためにある、テーマ病になるな。
  2. ストーリーマンガの時間、成年マンガの時間。
  3. ネームはマナー、なんのためのネーム模写か。
  4. 読者の「目」を引くための冒頭(アバン)。
  5. 演出を使う。

 講義が10時間に及んだだけあり、非常に盛りだくさんな内容です。とても一つの記事でまとめきれるようなものではありませんが、その中でもぼくなりに重要だと思った点を取り上げました。

テーマは作家のためにある、テーマ病になるな

 ひらマンの受講生に限らず、新人作家のほぼすべてが共通して陥りがちな病として『テーマ病』というものがあるそうです。師走さんは『テーマは、例えば女性でオシャレなマンガを描くなら春物の新しい服を描きたい。その可愛さを伝えたいで良い』とおっしゃっていました。『みんなは説教したがるが、説教を聞きたい人間はいない』という言葉で、どんなに良いテーマを持っていても、人々はそれだけでは受け止めてくれないと説明しています。マンガは、『面白い話の中に、テーマを感じられるから良いのだ』とも。

 一方でこれは「テーマを持つな!」という話では決してなく、『マンガにおけるテーマというのは「背骨」だ』という例え話をしてくれました。読者は背骨を見たいわけではないのに、描く側は『まずは背骨だ』と背骨を中心に考えてしまうので、カチコチの鉄みたいな背骨が出来上がり、棒人間のような作品しか作れず説教クサくなってしまうことがある、と。

 テーマは自分が作品を作るうえで自分の芯になっていればいいのであって、それを「どうしても読者に伝えなければならない!」と考える必要はないのだと教えてくれています。読者は多様であり、読者がどう思うかは読者の自由です。読者は作者が意図したようには反応してくれません。ですが、面白い作品を作り最大公約数的に多くの人に読んでもらうと、確率的に自分が分かってほしかった部分を読んでくれる人も増えるはず。

 テーマ(≒説教)を求めて読むような人も確かにいますが、基本的に「読者は面白いものを読みたい」と思っています。だからこそ、まずは面白い話を作るという方向にシフトする方が良いはずなのです。

 そして個性やテーマと言うものは、作者というフィルターを通ると自然に作品へ乗っかっていくものなので、まずは読みやすく、最後までページをめくらせるようなマンガを描くことへ意識を向けることが大切なのだと思いました。

ストーリーマンガの時間、成年マンガの時間

 ストーリーマンガと成年マンガでは時間の流れ方が異なっていて、そのために両者の描き方は違ってくる、という話をしてくださいました。

 ストーリーマンガというのは紙面の右上から順繰りに時間が経過していき、紙面上にバランスよくコマを割っていきます。他方、成年マンガでは一番みせたい魅惑的なシーンをバーン! と描いた後、紙面の隙間を埋めるようにしてそこまでの出来事を描くことで画面を作ります。

 この違いが何に現れているのかといえば、時間の流れ方で、成年マンガの方は「絵としての実用性」が求められるために『時間がループする』のだそうです。ストーリーマンガは多くの場合、コマの中に書かれた台詞の分だけコマの中で時間が経過しますが、成年マンガにおいては実用性が求められるコマの時間はループしています。例えば、行為の最中に見られる出し入れなどは、描き文字で書かれたオノマトペの回数だけ行われているのではなく、それを鑑賞する読者が望む分だけ何度でも繰り返されて消費されます。

 そのために成年マンガでは紙面上での時間の流れに融通がきき、魅惑的なシーンを紙面の好きな位置にドカン! と置くことが出来るのだそうです。ですが、ストーリーマンガでは紙面上での時間の流れが決まっているために、時間を適切な形で操れないと読むことが出来なくなってしまうとのことでした。

 そしてストーリーマンガにおける時間の操り方を学ぶのにはネーム模写をするのが良いということで、ネーム模写の紹介に移ります。

 (オマケですが、質問にあった矢吹健太郎さんの『To LOVEる』や、会場に遊びに来ていた大井昌和さんの『ヒメコウカン』は魅惑的なシーンが挿入されるものの、そこで流れる時間はループしないことから成年マンガではなく、ストーリーマンガであるとのことでした。)

ネームはマナー、なんのためのネーム模写か

 ストーリーマンガと成年マンガの違いで触れたように、前者は絶対にコマの中で時間が流れます。だからこそ、ネーム(紙面上のどこにどのようにコマや図像、記号を配置するか)が上達しないと時間の流れがおかしくなってしまいます。そして時間の流れがおかしいと、読者はマンガを読むことが出来ません。

 ネームは基本的にマンガのマナーです。右から左に読み進めて、みんなが嫌な思いをせずに読むためのモノなので、そのマナーを学ぶためにネーム模写をします。すべてを模写する必要はありませんが、どの位置に何が描かれているのか、人物の位置とカメラアングルの関係などを模写します。模写する際には、なぜそうなっているのかという意図や効果を考えながらやることが大切です。何のために何がどう配置されているのか。その配置をすると、読者にはどう見えるのかを考えながら、その効果を学ぶためにネーム模写をすると良いとのことでした。

 また、やみくもにネーム模写をすれば良いというものでもないそうです。

 師走さんはベテランの女性作家がネーム模写のねらい目だと紹介してくれましたが、最終的には、誰のどの作品をネーム模写するのかは作家個人のセンスが現れる部分でもあるとおっしゃっています。他にも、あえて自分が描きたいマンガとは大きく離れているジャンルの作家のネーム模写をすることも時に効果的だとお話ししてくれています。

 ネーム模写は師走さんに限らず、次回の講師である慎本真さんなど多くのマンガ家がお勧めする練習方法ですが、大切なのは、自分が何のためにどういう目的意識をもってネーム模写をするのか、という部分のようです。講義の中では書道の例えを交えながら『めいいっぱい観察するために模写をする』という話も出ていました。

 各々が各々に合わせてその時々、考えながらネーム模写をするのが良さそうです。

読者の「目」を引くための冒頭(アバン)

  第3回課題のテーマでもあった『画面作り』についてです。

 今回、ぼくが個人的に課題文で理解できていなかった部分でもありますが、師走さんは『冒頭4ページを無駄にしても良いから、映画でいう所の「アバン」を持ってきて欲しかった』とおっしゃっていました。正規受講生の提出作の中では、桃井桃子さんの作品が一番それを上手に作れていたそうです。

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 提出作品の中で多く見られたのは、冒頭(ストーリー)を丁寧に始めることで読者に読んでもらおうとしたものや、1ページではなく2ページに絵としてインパクトのある大ゴマを持ってきたものでした。他には、めくりを意識的に冒頭で用意している作品もありましたが、そもそも作品に興味を持ってくれていない読者の「目」を留めるだけの効果がありそうな演出としては、確かに物足りなさそうです。

 バイクが登場した作品を例に、『「キリン」のような冒頭で良い。むしろそれを描いてほしかった』とおっしゃっていたのが印象的でした。(下記に『キリン』のリンクを貼っておきます。kindle unlimited対象のようですので、是非。)鋭い言葉や、抒情的なモノローグで始めるのではなく、演出によって読者の興味を惹きつけて欲しいという意味だったのだなぁと、今のぼくは解釈しています。

 また、大井さんは「アバン」について『話の途中で出てくるシーンを序盤で持ってきて引きを作りつつ、そのまま話を邪魔せずに前に進行できる二つの機能を持った』ものであると説明してくれました。単に最初にアクションシーンを入れてしまうと話が分断してしまうので、むしろ邪魔になるとし『(話が)進行しつつ、すごい良い印象がある』というのが「アバン」だと教えてくれました。

演出を使う

 マンガを作る際のテクニックとして演出というものがあります。

 マンガは基本的に文字と絵を中心として物語を描いていくために、文字で伝える情報と絵で伝える情報の二つがありますが、演出を巧みに使いこなせるようになると文字で説明する部分を減らすことができ、よりストレスフリー且つ印象的なマンガを描くことができるとのことでした。

 特に今回は、思ったよりもページ数が増えてしまい、自分の扱える範囲でマンガを描くことが出来なかったという正規受講生がいました。その際には『感情の部分は表情や絵で説明が効く』とし、『5W1Hは、絵とかですっごくちゃんと「今ここでこういう人がこうしています」はコマをとって話さなくてはいけない』と説明してくださいました。マンガを描くにあたって、文字で説明できることと絵で説明できることをきちんと理解しておくのは、ページ管理という点でもマンガ作りという点でも重要なようです。

 また、演出と呼ばれるような、コマの使い方や構図の取り方、描き文字の使い方などはやはりネーム模写から学ぶことができるものなので、日ごろから基礎体力的にこれらのテクニックを身に着けておくことで表現の幅が広がるのだと思います。

おわりに

 10時間を超える講義だったこともあり、第3回ネーム講評会はかなり様々なトピックが多種多様な形で語られていました。その分、今回の記事で十分に扱いきれていない内容もあるとは思いますが、聴講生のぼくが個人的に重要だと感じたことに的を絞って取り上げました。

 このボリュームになると講義を見直すのもなかなか苦労がありますが、やはり、何度も立ち返るだけの価値がある講義だったと思います。もちろん、米代さんが教鞭をとった第1回や武富さんが行った第2回の講義も同様です。何かの機会に、もう一度講義動画を見直してみるだけで、行き詰まりを乗り越えるヒントが語られているはず……!

 今、第1回講義、第2回講義を見直してみると「あっ、ここでもう言われてたのか!」というようなことがありました。あたりまえですが、教わった全てをその日のうちに覚えて吸収することは非常に難しい。だからこそ息抜きがてらでも復習するのが大切だなぁと感じます。

 さて、一番大事なことをまだ書いていないので今回はそれを書いて記事を締めたいと思います。

 なんと! 2020年11月18日は、師走の翁先生、約二年半ぶりの新刊『Please! Freeze! Please!』の発売日!!

 みんな買おうね~。DVD付きがお得なようだぞ!

 というわけで、また次の記事でお会いしましょう。