週刊少年ジャンプにおいて鬼滅の刃第204話「鬼のいない世界」が掲載されて半日ほどが過ぎました。Twitterで確認できるレベルでも賛否両論(阿鼻叫喚?)様々な反応がありましたが、皆さんはどうだったでしょうか?
カラーページの”悪い鬼がいない世界になった”というモノローグに『善良な鬼と悪い鬼の区別もつかないなら 柱なんてやめてしまえ!!』と炭治郎が大見えを切った場面を思い出した人も多いと思います。
そこで今回は鬼について考えてみました。
鬼とは?
改めて考えると、本作品における鬼とはいったい何だったんでしょうか?
「鬼とは○○の隠喩である」という考察をする方もいますが、以下に示すものは素朴に鬼そのものについての確認です。
集英社による鬼滅の刃公式サイトの”人物物覚書”より鬼の説明を引用してみます。
人間を主食とする者。
いつどこから現れたのかは不明。
身体能力が高く、傷の治りも早い。
身体の形を変えたり、異能を持つ鬼もいる。
太陽の光か、特別な刀で頸を切り落とさない限り倒すことはできない。
続いて、鬼の総統とも呼べる”鬼舞辻無惨”について引用をしたいと思います。
炭治郎の仇敵。
千年以上前に一番初めに鬼となった者。
鬼の中で唯一人間を鬼に変えることが出来る。
普段は人間のふりをして世に紛れている。
以上のことから、鬼とは鬼舞辻無惨が人間を鬼に変えることで生まれるものである、と考えられます。構造的には”無惨を鬼にした誰か”が必要になりますが、作中では無惨はある病を治そうとした過程で鬼になったと明かされています。
特別な鬼(愈史郎・不死川玄弥)について
さて、公式サイトから引用してきたように、基本的に鬼と言うのは鬼舞辻無惨の行為によって生まれてきます。ですが、作中には無惨とは関係なく鬼になるキャラクターがいます。それが愈史郎と不死川玄弥です。
例外的な二人ですが、改めて二人についても情報をまとめてみましょう。
愈史郎とは
愈史郎は珠世という鬼によって鬼になりました。珠世は鬼でありながら同時に医者でもあります。そして、不治の病やケガなどの為に余命いくばくもない人に対し、事情を説明したうえで鬼になる様な処置を施すそうです。
無惨が鬼を作る際には傷口から無惨の血を体内に流し込むことが必要だとされていますが、珠世がどうやって愈史郎を鬼にしたのか具体的な方法は明かされていません。
珠世は無惨の血を分けられた鬼です。そうやって鬼になった者は基本的に無惨の支配下に置かれています。けれども珠世は例外に当たります。自分で体を弄った結果、無惨の呪縛から逃れることができ、人を食べることは無くなっているとのことでした。
愈史郎に関しても人を食べることはないそうですが、残念なことにそれがどうしてなのか確かな説明はありません。
不死川玄弥とは
玄弥は不死川実弥の弟です。実美は鬼殺隊の中でも特別な地位である”柱”と呼ばれるポストについている重鎮です。鬼滅の刃第14巻第124話”いい加減にしろ バカタレ”によると
玄弥もまた特異体質
優れた咬合力と特殊な消化器官により短時間の鬼化を可能にした
鬼殺隊唯一の逸材である
とのことです。禰豆子の血鬼術が有効なことから、鬼化している際の玄弥にはおそらく太陽の光も効くだろうと想像されます。ちなみに血を分けた兄妹である実弥はこの体質を持たないようです。
以上の二人から、あの世界には無惨に依存せず鬼になる方法があると分かりました。
それでは、本題に入りましょう。
誰が良い鬼? 悪い鬼?
果たして”良い鬼”とはどういう鬼なのでしょうか?
どうやら鬼殺隊の中に”悪い鬼は殺してもよい”という共通概念がある様子は確認できます。そこで、良い鬼であるとされる禰豆子に着目してみたいと思います。良い鬼を明確にすることで”それ以外”に当たる悪い鬼の輪郭があらわになると考えられるからです。
以降の解釈に説得力を持たせるには、鬼殺隊のトップである”お館様”の言を引くのが良いでしょう。
『炭治郎と禰豆子のことは私が容認していた
そしてみんなにも認めてほしいと思っている』『確かにそうだね
人を襲わないという保証ができない 証明ができない
ただ 人を襲うということもまた証明ができない』『禰豆子が二年以上もの間人を食わずにいるという事実があり
禰豆子の為に三人もの命が懸けられている』『これを否定するためには
否定する側もそれ以上のものを差し出さなければならない』
以上はすべて単行本第六巻第46話”お館様”からの引用です。
お館様は柱から非常に尊敬されており、その意思は鬼殺隊の意志である、と言い換えられるような立場にある人間です。引用部分は明らかに悪魔の証明ですが、こうやって禰豆子が許されているのですから、これが良い鬼(=殺してはいけない鬼)であることの条件であると考えるほかないでしょう。
お館様の台詞は、確認できる範囲で人を襲わない鬼が良い鬼だ、とまとめられます。ちなみに、炭治郎も同じような理屈で禰豆子を生かすよう柱たちに訴えています(冒頭で触れた『』内の台詞です)。そして反対に悪い鬼とは、確認できる範囲で人を襲った鬼だ、と言うことになるでしょう。
悪い鬼がいない世界
宿敵である鬼舞辻無惨を倒したのちの世界を、第204話ではモノローグでそう表現していました。無惨によって鬼にされたものは、無惨が死ぬと同じく死んでしまうと言う設定を受けてのことだと考えられます。
それでは、”悪い鬼”がいない世界とはどのような世界なのでしょうか? 今までのことから考えると”確認できる範囲で人を襲った鬼”が居なくなった世界だと言えそうです。
鬼滅の刃における主人公であるところの炭治郎は、物語の初期において”鬼も元々は人間だったのだ”と訴えます。だからこそ、人を襲っていない鬼=良い鬼を殺す理由はない、とのことでした。しかし、鬼の全てを把握していない状況で無惨を倒してしまった以上、もしかしたら人を襲ったことが無かったかもしれない鬼(=良い鬼)も問答無用で消えてしまったのです。
炭治郎は鬼を殺す際に『責任』と言う言葉を使いました(第14巻第124話”いい加減にしろ バカタレ”)。『命をもって罪を償え!!!』(第15巻第126話”彼は誰時・朝ぼらけ”)とも主張しています。ここでいう”罪”と言うのは”人間を食ったこと”であると第14巻第116話”極悪人”の問答から推測されます。
ここでの問答は鬼滅の刃の根底を為す考えが良く表れているので非常に重要な場面です。そのため、長くはなりますが少し寄り道をします。
以下に鬼と炭治郎の問答を引用しました。敵対する鬼が炭治郎に”悪人”と呼びかけたところから掛け合いが始まります。
『』が鬼の台詞で「」が炭治郎の台詞です。
「どうして どうして俺たちが悪人・・・なんだ」
『”弱き者”をいたぶるからよ
のう
先ほど貴様らは手のひらに乗るような”小さく弱き者”を斬ろうとした
何という極悪非道
これはもう鬼畜の所業だ』「小さく弱き者? 誰が・・・誰がだ?
ふざけるな
お前たちのこの匂い・・・血の匂い!!
食った人間の数は百や二百じゃないだろう!!
その人たちがお前に何をした?
その全員が命をもって償わないことをしたのか⁉
大勢の人を殺して食っておいて 被害者ぶるのはやめろ!!
捻じ曲がった性根だ 絶対に許さない
悪鬼め・・・!!
お前の頸は俺が斬る!!」
鬼を殺す力を持っていることを自覚し、その上で小さくて弱いものを殺そうとするお前らの方が悪人なのではないか? と問いかける鬼。それに対し炭治郎は、お前らからは人を食った匂いがするから殺すんだ! と返します。
再び考える
再度、”悪い鬼がいない世界”に立ち返ってみましょう。
ここまでのことを振り返ると、悪い鬼がいない世界とは”全ての鬼が人間を食ったかどうか(=悪い鬼かどうか)は証明できないが、とりあえずそうだということにして訪れた世界だ”と言えるでしょう。
炭治郎が必死に禰豆子を庇ったことが正しいのであれば、鬼殺隊は無惨を殺す前にその他の鬼全てに対して同様の吟味をしなければならなかったはずです。ところがそうはならなかった。このことこそが、第204話やその付近の話が賛否両論を呼ぶ理由なのだと思います。
最後に
ファンの一部では”無限城編”に入ってから物語の構造が崩れ始めた、と主張する人が居ます。果たしてそれは本当でしょうか? ぼくは前回の記事で、鬼滅の刃は全体を通してすべてが支離滅裂だが、だからこそ良いのだという話をしました。よろしければそちらの記事もお目通しください。
それではまた、別の記事でお会いしましょう。
2020/05/19 実弥の誤字を修正