とらじろうの箱。

自分でプレイしたゲームや、読んだ漫画や本などについて書いています。なお、このブログではAmazonのアソシエイトとして、適格販売により収入を得ています。

【ひらめき☆マンガ教室】第3回課題・画面を作る ネーム編【第4期】

第3回課題・画面を作る

前置きがあるので、読み飛ばしたい方は目次からお好きな場所にお飛びください。

はじめに

 ひらマン4期聴講生の「とらじろう」と申します。今回は第3回課題に対するネーム提出作品へのコメントを書いていきます。

 以下に示すのが本エントリーの構造です。

  1. 課題文の要約
    どんな漫画をどういう風に書いてほしいと言われたのか、ぼくなりに一言か二言でまとめます。
  2. 何を意識して作品を読んだか
    2つか3つほどの要素を提示します。その点については意識的に読み取ろうとして読んだよ、という意思表示です。
  3. 作品を読んだ環境
    PCで読んだ、とか、スマホで読んだ、B5に印刷して読んだ、とかそういう奴です。ひらマンでは『誰に向けて描いたのか』を重視しているように思えます。したがって、漫画がどのような媒体に掲載されるのか(どのような環境で読まれたのか)は大きな要素であると考えてこの欄を設けました。
  4. 作品へのコメント
    エントリーの本丸です。作品へのコメントを描きます。ただし、少なくとも一つは「ここはこうした方が良いのでは?」的なことを書くつもりです。

*随時更新する方法をとっています。更新回数はタイトルで示し、ゲンロンから定められた期間内に掲載されたすべての作品にコメントを終えた段階で本エントリーの大きな更新は終了とします。*

課題文の要約

 限られたページ数の中で可能な限り読者の興味を惹きつけ、読みやすい、あなたの主張が伝わるマンガを、魅力的なヒロインを題材として描いてほしい。

何を意識して作品を読んだか

 1点目は「冒頭4ページで興味が持続するか」です。課題文で明確に記されていましたが、『漫画は読まれなければ何も始まらず、意味もありません』。冒頭4ページがめくりへの欲望を喚起するような画面になっているのかを意識して読みます。

 2点目は「読みやすいか」です。第2回と重なる部分でもありますが、リーダビリティについての話です。マンガとして飛び過ぎている場所が無いか、目線誘導に乗り切れないところがないかを気にします。

作品を読んだ環境

 ノートPCのchromeブラウザでスクロールを利用して読みました。

 導入が長くなりましたが、以下、コメントへ。

作品へのコメント

『ソネザキ童心チュウ。』作者:シバ

 デイサービスを舞台に、それも認知症や介護の話を絡めながらほっこりとした雰囲気にマンガをまとめられていて底力を感じました。ソネザキさんもすごく可愛らしくて、ヒラノさんがいてくれてよかったなぁと思いながら読みました。

 うーむ……。今回のネームは特に目が止まることも話の中で躓くことも全然なくて、ごく普通によむことが出来たのでこれと言って指摘した方が良いと思うことは見当たりませんでした。強いてあげるとしても、田舎の耳が遠くなっているようなおばあちゃんは親友のことを親友とは呼ばず、○○ちゃんとかそういう呼び方をする方が自然なんじゃないかな、と感じたことくらいでしょうか。

 あとは5ページ4コマ目で、その後のキーアイテムとなる写真を挟み込んではいるものの、このコマがあまり生きていないようには思いました。意味深長な描かれ方にはなっていますが、登場人物たちのリアクションを介さない情報でしかないので、読者としては重要っぽいがどんなもんなんだろう、とフワフワした雰囲気でしかとらえられないように感じました。

 本当に楽しく読めました! 扱っているテーマもすごく興味深かったし、何よりマンガとして違和感が殆どなかったので引っ掛かるところなく読めてしまう……。おもしろかったです!

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『春終い』作者:ahee

 冒頭から読者の興味を惹きつけ、最後までページをめくらせようと考えたときに万人共通の「死」を持ってくるのは良い作戦だと感じました。近頃流行ったものとしては『100日後に死ぬワニ』などが同じような構造でマンガを読ませていたはずです。特に今回のネームは、春という一般的にポジティブさを感じる季節から入り、キャラクターも陽気に描いていたところを2ページでひっくり返しているので強烈なインパクトがありました。

 ぼくとしては読めてしまうことと、この雰囲気がマンガの読み味を左右しているところがあるので非常に難しいのですが、会話に大胆な省略が多く、たいていの人はメインキャラクターの二人がなんの話をしているのか分からないのではないかと感じました。早い段階で手の止まってしまいそうなものでは、4ページ中段の会話がそうでしょうか……。『追いつくだけじゃ あきたらず、 先に卒業しちまうよ』だけで、男の子はもともと先輩だったけど、留年or休学して糸目の子と同級生になってしまっているという状況を瞬時に想像するのは難しいと思います。「何を言っているんだろう?」と考えながら読めばわからないこともないのですが、台詞のたびに逐一読者を立ち止まらせてしまうのは得策でないように思えました。

 空気感は本当に素晴らしくて、14ページの電気を消した後暗闇で会話を続ける二人のシーンなどめっちゃ素敵です。

 また、会話以外の飛躍としては、マンガの中で特に触れられることなく男の子が海外に行っていたので初見で読んだときは最後の場面がどうなっているのか分かりませんでした。

 正直、ぼくとしてはこのネームの雰囲気がとても好みであることと、ほとんどの飛躍を読めてしまうことの二つがあってなかなかコメントを残しづらいところがあります……。他の方のコメントと比べて異質な感じがあるとすれば、ぼくの問題です。申し訳ありません。

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『本能でぃてくとっ!』作者:あまこう

 無骨で男臭い男の子と妖艶な雰囲気を持つ女の子のふんわりえっちなマンガとして読みました。女の子を楽しく書いているのが伝わってきて、読んでいるこちらとしても女の子の魅力に乗っていきやすかったですっ。

 全体的に言えることとして、少しずつ物語が跳ねてしまっているような印象を受けました。「飛躍」とまではいかないものの、これとこれはつながってないなぁというような小さい飛躍が多かったように思います。それは日本語的な問題の部分があったり、描写不足であったりと場面によって異なる形で繋がりが跳ねているように見えました。

 例えば、冒頭のモノローグ『一人で 過ごす事が 多いんだが』→『妖崎さんと 日直になった』の部分は日本語としてつながりが奇妙です。もちろん、現在のモノでもわからないことはないのですが、「一人で過ごす事」と「誰かと日直をする事」は両立するはずで、もし今のようにこの二つの要素を逆説でつなげたいのなら『一人で過ごすことが多いのだが、今回はどうしても妖崎さんと二人で作業をしなくてはいけなくなった』というのが自然に感じます。これくらいの小さな跳び方なのですが、これらがところどころで顔を出していて、マンガに入り込めたと思ったらピョンと弾かれてしまうように感じました。

 9ページの1コマ目と2コマ目についても『……ごめんね 我慢できなかった』→『だって樫本君 すっごく美味しい♡』に違和感があります……。というのも「我慢できなかった」というのは過去の話で、『だって』とつなげて我慢できなかったことに対する説明が加わるはずなのですが、ここでは「すごく美味しい」という我慢をした後に起きた出来事が付け加えられていて変に見えてしまいました。つながりとしては『……ごめんね 我慢できなかった。 だって樫本君 すっごく美味しそうだったんだもん♡』の方が自然に思えます。

 描写が足りないのかなぁと感じた部分については、4ページの2コマ目などがそうでした。ここでは妖崎さんをがっちりホールドしてしまったことと、そのために樫本君の血の気が引いてしまったことを二つ同時に描いていますが、絵としては妖崎さんの顔がメインになっているので『サーッ』という血の引く音が妖崎さんの側にかかっているように読めてしまいました。特にここはとっさの行動をとった後のシーンなので、樫本君が冷静になったシーンを見せてほしいなぁと感じます。

 絵で説明できている部分はすごく多くてそういった意味では、日本語のつながりさえ良くなれば、現在のネーム程度の文字量でキチンと説明ができるように思いました。特に8ページなんかはこのままで十分すぎるくらい情報が伝わって来るので、絵で魅せることはバッチリ出来ていると思います!! やはり、作者自身が可愛いと思って自信を持ちながら描かれた子は読者にとっても可愛く見えますねっ。

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『理想の同居生活』作者:俗人ちん

 しょっぱなからお兄ちゃんがクズっぽくて良い感じです。妹の手の上でくるくると踊らされている感じも面白い!

 提出が滑り込みだった関係か、ネームアピールがほとんど書かれていないので、俗人ちんさんがやろうとしたこと意図通りマンガに現れているのかどうかコメントを残せず申し訳ありません。『主人公の反応に気を使いました』とのことで、主人公というのは男性の側だと思いますが、そういう意味では今のネームはきちんとリアクションを描けているように見えました! 読んでいて男性の行動に違和感を持つことはありませんでした。

 まだソフトウェアに慣れていないのか、2ページや5ページの最終コマなど、断ち切るのか断ち切らないのかこちらからは判断のつかない描き方をされていたので、そういう点を少しずつ解消していくのも大事なのかなぁと感じました。

 女の子の表情もとても可愛らしく(あるいは魔性的に?)描けていてとても良いと思います! 全体を通しての読みにくさについても今回のネームでとくに気になる程、手の止まったシーンはありませんでした。1ページの3コマ目なども、女の子が部屋に入ってきたことを描きながら同時にだらしなく寝ている男の子を示せていてうまい使い方だと感じました!school.genron.co.jp

『アイツを好きなキミが好き』作者:藤原白白

 男性としてこのマンガをどう読んだら良いのか難しいところではあったのですが、それはともかくとして読みやすかったです! 途中、比較的アクロバティックなコマ使いをしているところもあるのですが、そこで目が止まることなく読み進めることが出来ました。

 2ページなのですが、上段右側が左下に広がっていく台形としてコマを割ってあるため、『今日――』まで読んだ後で涼子さんの顔へ視線が誘導されてしまって(マンガの場合、なかなか右に目線を振ることが無いので『今日――』のコマにある机より右側には視線が動きませんでした)『まだチャリだとあっちーなー』の書き文字を読み落としてしまいました。何度か読み返していたのですが、ほかの聴講生の方から「書き文字あるよ~」と教えていただくまで気づくことが出来ませんでした。そのため、このコマで京子さんが汗をかいている理由が読んでいるときには分からなかったです……。

 5ページの1コマ目に入っている時計は、ノドに近いこともあり、場合によっては見落とされがちになるかもしれません。

 10ページ下段の『が』なのですが、読む時々によって一つ前のコマの『腹痛は消えていた』につながって読めたり、独立して読んでしまったりした。なのでもしかすると「けど」にするか、『腹痛は 消えていた』に「――」をつける等、補助的に『が』へのつながりを意識させてくれると違和感なく読むことが出来るのではないかと感じました!

 11ページの最終コマは『告白とかしないんですか?』と『――俺は 一体何を!?』で本来別の表情をしているはずだと思うのですが、それが現在のネームだと後者の表情だけで描かれているので『告白とかしないんですか?』という台詞が誰のものなのか混乱してしまいます。文脈から主人公のモノだと分かるはずなのですが、コマの中のリアクションは台詞の後の表情なので、納得しながら次へすすむのが大変でした。

 『したで 三回!』からは、転がっていく物語の勢いに巻き込まれるかのような感覚を抱きながらドンドンとマンガを読み進めてしまいました。明確に転調していて、来たぞ~来たぞ~! とクライマックスへ乗せて行ってもらうような思いで、一番このマンガを楽しめた瞬間なのではないかと思います。楽しませていただきました!

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『SPiCE LOVE』作者:かれーとさうな

 ついにカレーが解禁ですね……。と、軽口は置いておいて、4ページというボリュームでキチンとヒロインのキャラを立ててくるあたり流石だと思いました! 『落し物は一円でもポリス』や『そんなマサラ…』といった言葉のチョイスも面白く、冒頭のテンションについていきさえすればズバーン!と読み終えてしまう最高に勢いのあるマンガでした。

 2ページの1コマ目なのですが、スキャンの塩梅や線の細さ、女の子のフワフワ吹き出しの位置などもろもろの影響で『毎日のお弁当が、カレー!』の『カレー!』を3回くらい見落としてしまいました……。カレーという文字の左半分が女の子から出ている吹き出しの一部だと思ってしまっていて、読み飛ばしていたのです……。

 同じく2ページの中段右のコマ、『ランチになるとフラット消える 追いかけた先で発見の 驚愕のカレー弁当 5連発!!』は前者の「の」の意味が通りにくいために少し理解に時間のかかる感じがありました。

 『もう、ってカレー作ってる~~!』が本当にもう、ってカレー作ってる~~! なのでこのシーンまで読んだ以上、何も言うことが無いと言っても過言ではないところまで来ているように思います。こんなマンガを描いてしまうほどの「カレー」なる食べ物、ぼくも気になります! 冗談ではなく、本当にこのテンションに振り落とされなければめっちゃ面白いです。なので、この振り落としの部分について書けることがあれば、と思ったのですすが今のぼくにはそこが分からないらしく、言語化できませんでした。申し訳ありません。でも、このマンガが読めて良かったです! 元気が出ました!

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『君との距離』作者:かずみ

 女の子の甘酸っぱい感じと、男の子の青臭い感じがとても上手に表現できていてどこか恥ずかしがりながらマンガを読み進めてしまいました。独りよがりな感じで悦に入っていた男の子が、傍で震えている女の子に気づいた後、キチンと気合を入れ直して何とかしようとしてくれたので安心しました。

 大きめのコマを使いながら時系列に沿って話が進んでいくので、特に混乱することもなく最後まで読みやすかったです。何が描いてあるのか分からないということも、台詞の意味が分からないということもなく読み終えました。

 少し気になったのは2ページの4コマ目で女の子の顔が赤らんでいたことでしょうか……。5ページで男の子の呑気さがひっくり返されますが、その前に当たる部分で女の子が恥ずかしがっているように見えてしまうシーンを挟んでいて良かったのかなぁと感じました。

 うん……。これくらいで、ほかにあまり言うべきことは思いつきません。とにかくマンガを読むのに詰まることはなかったのでストレスなく読ませていただきました!

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『いぬのようなひび』作者:こぐまあや

 1ページの右下コマが黒塗りのフチと連続して見えてコマで描かれている以上に高い崖だと思い込んでしまって、ものすごい恐怖感でした。――というわけで冒頭から引き込まれていったわけなんですが、20ページの中で一度展開をひっくり返したうえでオチまでもっていっていてすごいなぁと思いながら読ませていただきました!

 物語の冒頭で、ヒロインには現在まで残る傷跡があり、それが『初めて見たときビビっ』てしまうほどのものであることと、回想では全身包帯だらけであることを見せられていたので6,7ページの流れを誤読してしまったことになかなか気づきませんでした。

 つまり、6,7ページを初見時に、「ああ、この子にはケガの後遺症があって、その原因となった主人公を付き従わせていて、いまは手が使えないから代わりにドライヤーしてもらっているのか」と読んでしまったということです。この誤読がどれほど一般的なものなのかはわからないのですが、6ページ下段の『そもそもプールの後に髪乾かせないって』のところは、ドライヤーを使うことそれ自体が禁止されているんだという情報にしても良いのかもしれないと感じました。

 12ページの1コマ目なのですが、ヒロインの目線が2コマ目の主人公へ向いているために、そっぽを向いての台詞なのか主人公の方を向いての台詞なのか少し迷う感じがありました。わざとらしく『藤代くん』呼びをしていて、どちらでもあり得そうに思えたのです。また、13ページの3コマ目では松岡の台詞を聞き流しているという演出だと受け取ったのですが、右下に挿入されている『でもそれじゃない』という台詞は、こうやって吹き出しにされてしまうとどうしても意味のあるものに見えてしまって気を散らされてしまいました。4コマ目のように主人公の焦点が全く別のところにあわされた状態で描き文字になっているか、3コマ目でも左上にあるように、視線誘導から外れている部分にはっきりと変な形で挿入されていれば気を取られないのではないかと感じました。(13ページの下段には違和感がないので、目線が描かれているか否かが大切なのかもしれません!)

 16ページからの展開(主人公の動き方)は少し唐突に映ってしまいました。主人公がヒロインと離れた後の生活に違和感を持っていたのは伝わっていたのですが、こんな風にヒロインの目の前で思いのたけを爆発させてしまうほどに張り詰めているとは受け取っていなかったので、急にどうしたんだろうという印象になってしまいました。

 負い目のある主人公とそれを恣意的に利用しようとしているヒロインを描きながら、その共依存を二人が楽しんでいるというお話はとても劇的ですごく面白かったです。作中できちんとこの関係は変だ、と言われているにも関わらずこちらへ戻ってきてくれたので、読後の「この二人はこれでいいんだよ」感はひとしおでした! ネームアピールを読むと、ご本人の中に強く納得のいかない部分があるようです。完成稿、楽しみにおまちしております!!

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『漢らしさって何ですか?』作者:kinositamarisa

 (◇初めに◇ひらマンのサイトで見られる作品はところどころページが前後していたのでそこに関しては本来の順番だろうと思われるもので読み直しています。コメントで触れているページ数はノンブルに従っています。)

 物語がすごく読みやすかったです! 1ページを見ればどんなマンガなのか予想がついて、その上でライバルである西条の紹介を挟みながらダレることなく東堂くんのギャップが紹介に入ったのでグングン引き込まれていきました。「ヤンキーと可愛い」という定番的組み合わせながらも、そのカウンターとしての西条が全16ページという限られた中で物語を回収するのに相応しい設定になっていて、このボリューム感覚の良さに驚きます!

 7,8ページが全体の流れの中でぶつ切りになっているように思いました。つまり、3ページで『はああああ おれもカノジョつくって――』と言っている男の子(とその後ろにいるモブ)がいつ居なくなったのかということ。それに加えて、7ページの冒頭で東堂は誰に殴られているのかという二つのことが今のネームからだと分かりませんでした。特に7ページの1コマ目は、ここがどういうシーンなのか分からなくて戸惑ってしまう感覚が強かったです。

 6ページの読み方も難しく、このシーンは回想なのか、それとも現在のダイジェストなのか、判断がしづらかったです。加えて、どちらで読んでも7ページあるいは8ページと上手く流れがつながらないように思えてしまいました。

 喧嘩のシーンで東堂と西条のキャラクター性を出すのも上手いし、その流れの中で前振りしてあったスイーツキーホルダーを見せるのも違和感がなく読めました。決着のつき方も最終的には喧嘩の勝敗ではなく、読者にとって想定外の着地をしてくれるので刺激的で楽しかったです!。 主に気になったのは上に書いた6,7,8ページの切断だけでした。面白かったです!

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『隣の彼女の口のギラギラ』作者:ハミ山クリニカ

 Twitterを想定した、ということで冒頭からエロネタ(もう少しR18を目立たせてもいいような気がします)と小ネタ(それも時流を意識した鬼滅の刃ネタ)を挟むことで読者の興味を持続させようというあたりが流石だと感じました。一つのまとまりの中に説明を詰め込み過ぎることなく、一つの枠に一つの意味という対応で文字を読んでもらってストレスをコントロールする戦略が上手いと思います。それでいてマンガとしての作りが大きく変になっていない……。

 ほかの場面で言葉の扱い方に気を使っているのが分かる分、4ページ上段のモノローグ『食べてるときは そんなに矯正は 見えないけど』で”は”が連続するのに違和感を持ってしまいました。特にここは『食事中だと そこまで矯正は 見えないのに』などで意味やニュアンスをそこまで損ねずに置き換えられるのかなぁと感じました。また、同じく4ページですが、『バレてる…』の左上に書き込まれた男の子の顔がブロッコリーの話についているのか、『バレてる…』の方についているのかがパッと分かりませんでした。この位置だとそれが曖昧になるのに加え、視線誘導に載らない場所に配置されているので初見時には顔そのものに気づかず読み進めてしまいました(そして、それでもあまり読書感を損ねていなかったように思います!)。

 仮に紙の場合で考えるとノドに近いし、Twitter想定でも視線の動きが『アンタ なんでいつも――』のコマ全体を読み切った後に顔へ誘導されて、ヘアピンカーブのような形で戻ってきてしまうのでおそらく顔そのものが無視されてしまうのではないかと感じました(顔がないと『バレてる…』と『全部バレてる』の配置が近すぎて『それも 口元ばっかり』まで行かないのはそうかもしれないです……)。

 ネームアピールで気にされていた部分については基本的にあまり違和感なく読み進められましたが、全体を通して吹き出しの配置に(本当に些細なものではあるのですが)ストレスを感じてしまうような印象がありました。

 いやぁ、それにしても題材そのものが面白かったので「えぇ、こんな奴いる~?w」と思いながらも「なるほどなぁ」と読み進め、「最後は良い話で終わってしまった……」と手玉に取られたように読み終えました! 小さなことですが、Twitter想定のマンガで最後にきちんと『終』マークが入っているのもストレスが無くて好みでした。とても面白かったです!

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『ブルー・メッセージ』作者:コバヤシ

 ご自身が読者として振る舞う時の感覚を頼りに、冒頭3ページまでで読者を掴もうと、ネームの中でキモとなるパターンを見せ切っているのが非常に良かったです。「告白→振られる」という構造が繰り返される中で、キャラクターのリアクションによって少しずつ展開が変わっていくので、描かれていることを理解するのにストレスがとても少なく感じました。その上で最後には冒頭をひっくり返すところまで物語が進んでくれていて、読みやすさと気持ちの良い読後感をセットで味合わせていただきました!

 2ページ2コマで描き込まれているミミさんの汗なのですが、1ぺージの時点でも同じように汗が描き込まれているので少し理解に躊躇してしまう感覚を持ちました。少し倒錯した理解ではあるのですが、2ページの方の汗はその意味が明確な分、そこから翻って1ページの汗の意味が曖昧になってしまいました。具体的には以下のような混乱をしてしまいました。

「あれ、2ページの汗は男の子のせいだと思うんだけど、なんでこの子は1ページでも汗かいてたんだ? 仕事が忙しいって表現だと思ってたけど、2ページの汗はこっちの意味なんだから、1ページの汗も男の子のせいなのかな……。『ミミさんっ!!』って声をかけられる前から男の子に気づいてたってこと? でもそうだとすると、気づきの”””が描き込んであるのはおかしい様な……」ということです。

 言い回しの話ですが、同じ言葉が間を開けずに使われているので少しひっかかりを感じてしまったのが6ページの『も もうっ!!』でした。この手の違和感は持つ人は持つし、持たない人は持たないというものなのかもしれません。ですが、今回の場合で言うと前ページの『…もう…』か、6ページの『も もうっ!!』は「…まったく…」など、言葉のニュアンスを損ねることなく別の言葉に置き換えることが出来るように感じるので、気にしてみても良いのかもしれないと思います。

 バーという舞台設定もカクテル言葉という演出に生かされているし、ギミックが単にギミックとして使われるのではなくヒロイン描写にも接続されているので本当に心地よく読むことが出来ました。ヒロインもちゃんと可愛いし……! 面白かったです!!

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『ぼっち』作者:kuzikuzira(シギハラ)

 「独りぼっち」の話が大きなコマ割りでゆっくりとした時間の中で進むため、物語の中身と空気の流れが歩調を合わせているように感じながら心地よく読ませていただきました! おそらく第2回講評を受けてのことだと思いますが、簡単な線でも背景が描き込まれているのでネームも読みやすく、どこで何をしていているのかをストレスなく読み取れました。冒頭で何の話なのかすぐに分かるので、物語の方へ気持ちを寄せやすくなっているのもストレスが少ない要因だと思います!

 おそらく意図的なものではないと思うのですが、1ページだけトンボに対してコマが内側に配置されています。冒頭なので、チェックした際に気づけるようになっていた方が良いのではないかと思いました。6ページの方は誤字脱字の類で、2コマ目が『賑やかな”な”のは嫌になるよね…』となってしまっていました。こればかりは気づかないときは本当に気づかないので、意識的にチェック段階を増やしてみるしかないのかもしれないです……。シギハラさんは登場人物の名前に少し読みにくい漢字を使う傾向がありそうなので、初めてキャラクターの名前を出した際にはルビを振ると読者にとってストレスが少ないように感じました。あくまでぼくの場合ですが、キャラの名前が読めないとそのたびに思考が「これなんて読むんだっけ?」の側に割かれてしまうので、対応していただけると幸いです……。

 2ページの1コマ目『うるさ』はもう少し引き立てても良いような印象を受けました。前述のこともあって1ページには言及しにくいのですが、1ぺージの最終コマはもうちょっと周りの賑やかさ(主人公のボッチが空しい感じ)を見せていても良いのかなぁと感じます。

 コロッとやらかしてしまっているようなところはあるよなぁと感じたのですが、全体としてみると特に大きな読みにくさを感じることも、物語の流れの中で強い違和感を持ってしまう部分もなくて、ススス~っと最後まで読み切ってしまいました! 個人的にも第1回、第2回と作品を読ませていただいていて「もう少し長いお話を読みたいなぁ」と感じていたので、12ページのものが読めて嬉しかった。ありがとうございます!

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『眉毛とパンツと先輩と』作者:盛平

 インパクトのあるマンガで非常に楽しませていただきました。意識されてのことか分かりませんが、メインで出てくる女の子二人の性格的造形や掛け合いのバランスが絶妙なラインを攻めていて、ドタバタ面白系の読み味に近いのに、ネームアピールに描かれていたような、シリアスになりがちな問題意識がきちんと写し取られたネームになっていると思います! そういう意味で本当に興味深く読ませてもらえました!!

 一方で、先輩とゾフ子の描かれ方には少し注意をした方が良いのかなぁとも感じました。先輩の場合は目の前で笑われたことに対して応答するシーンがあるにもかかわらず、ゾフ子の方は単に遠くから笑われてしまっているように読めてしまったからです。その為にゾフ子のことをかわいそうだと感じてしまいました。ネームアピールを踏まえると、ここは盛平さんが描きたいと考えている部分とも強く関わってくる部分に思いました。なので、出来るだけ注意深く扱ってあげられると良いのかなぁと感じます。

 1ページの2コマ目なのですが、このコマの大きさだと「主人公が何かに気づいたこと」と「建物のある方が騒がしいこと」の二つの情報を詰め込むのは少し見づらい様な気がしてしまいます。断ち切りコマなどを使ってみると紙面を広く使えて情報の伝え方を整理できるかもしれないなぁと思いました! あと、それまでは普通に読み進めて行けたのですが、最終ページの最終コマで少し躓いてしまう感じを受けました。それまではロッカールームで話をしていたので、急に道場の中に場面転換していて「?」となってしまいました……。

 早い段階でインパクトのある展開を持ってきてもらえると読者としても楽しくマンガを読むことが出来るので、2ページの時点で先輩の眉毛を大胆に見せてくれたのはとても気持ちが良かったです!! 先輩やゾフ子など、キャラクターの造形もユニークでありつつきちんと愛嬌も持っているように描かれているのでキャラクターを眺めているだけでも楽しいです! 

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ワンルームの女王』作者:motoko

 ネームアピールには『ゴキブリ苦手な方には冒頭で引き返してもらおう』とした、とありましたが、これだけキュートな造形でキャラクタライズされているので(ヒト型だし)結構手広い方に読んでもらえるのではないかと思います! 造形の力がとても素晴らしくて、屈強でありながらも可愛らしさを残しているチャバ姉さんがめっちゃ良いです! 2ページ目まで読んでしまえば、造形の魔力だけで最後まで読めるようなマンガだと思いました。しかも、1ページできちんとめくらせようという意識のある作りを持ち込んでいるので読んでしまうはずです!

 冒頭の描き込み(あるいは構図)をどうするのかが少し気になりました。ネームの段階だとチャバ姉さんの身体能力は十分伝わるものの、『すげー あんな大物に 挑むなんて』の場面など、コマの中で何が起きているのかを読み取るのは難しいように思いました。18、19ページでもわずかにこの傾向があり、主人公が謎の業者に突撃したところまでは読み取れたのですが、その後にどうしてアシダカグモがやられることになったのか(主人公は無事だったのか)を読み取ることが出来ませんでした……。

 12ページから15ページまでのチャバ姉が本当に格好良すぎて、14ページ右下のカットインなどめちゃくちゃ感動的です。そしてだからこそ気になるのが、17ページの断ち切り大ゴマでした。初見の際にはここで物語から振り落とされてしまうような感覚を持ってしまいました。つまり、ここの『なのに俺、また怖くて動けねぇ』の『また』と『怖くて動けねぇ』が読者としては描かれているだけの重要性をもって受け止めきれなかったのです。というのも、12ページを受けての17ページのはずなのですが、12ページが文字だくで読者としては耐えるページになってしまっていること。加えて『怖くなって出願すらしなかった』という部分より「多浪しているにもかかわらず何も成し遂げていない」という部分の方に重きを置いた描かれ方になっているために、読者の中で『怖さ』が重大な要素として居座ってくれないからだと思います(12ページと17ページでは物理的な距離が離れすぎているというのもあるかもしれません)。

 5ページの2コマ目などによって、このファンタジックな空間へ説得力を持たせようとしているのが分かるので、ぼくとしても思わずこの世界を好きになってしまうようなマンガでした。読んでいて本当に楽しかったです! 普通にチャバ姉さんの前日談とか読みたい……。ありがとうございましたっ!!

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『高石先輩は多趣味』作者:なないつ

 男の子の話かと思って読み進めていく中で、実は先輩の方こそ葛藤を持っていることが分かっていく展開が非常に面白く読めました! ヒロインを魅せることに主眼を置いて問題の構造をヒロインの側に移し替えつつ、主人公に一歩踏み出させる構成は素敵です。……現状が11ページでもう少し紙面を使えるというのを考えると、「実は主人公の悩みって婚活とかじゃなかったよね」という部分はもう少し明確に描いてしまっても良いのかなぁと感じました!

 10ページのコマの大きさが少し引っ掛かってしまいました。左上コマで主人公のリアクションが描かれていることもあり、ヒロインの独白を受け止めること自体はとても自然にできたのですが、中段左のコマと下段の情報なら下段の方がより重要な情報のように思えたのです……。一方でここの泣き顔はとても良い表情をしているので、読者としてもこの顔は大きく見たいと感じました! 困った。例えば、ですが、「スケアリーの引退を思うとつらい」という情報はもう少し小さなコマで目元を伏せた絵(涙が零れ落ちる手前など)として見せて、『凪くんが別の何かを――』のところで大きく泣き顔を見せる、などの濃い演出を使ってみるなどがあるのでしょうか……。

 全体的に、きちんと間を入れるのだという意識を感じて、キャラクターの揺れ動きを把握しやすい作りになっているという印象を受けました! 3ページや8ぺージなど、主人公が先輩とのやり取りを通して影響を受けていることが分かるようになっているので、冒頭と終わりで、主人公がどういう変化をしたのか納得しやすい作りになっているように思います。他方で少し「このリアクションの意味は少し分かりにくかったかも」という場面があり、それが9ページの右下コマでした。8ページで先輩が楽しんでいることへのリアクションが描かれていたので、9ぺージのここが何に対するリアクションなのか悩んでしまう感覚がありました。今のネームだとリアクションゴマの後に『お前に愛はあるんかー!』が来ていて、ページをめくると『まさかの関西弁だった』と続いてしまうので、「この主人公、結局最後は関西弁に驚いていたの……!?」と読めてしまいました。

 キャラ心情の揺れ動きを描く際に、その起点となるリアクションが多く描かれていたのですごく読みやすかったです! ヒロインを見せようという中で、最後がヒロインの大ゴマ、それも良い感じの表情で終わってくれていてよかったです~!!

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『あの子の痕跡』作者:のり漫

 序盤、暖かい空気の中で物語が進んでいき、主人公とあの子の日常を読者が理解したところで事件が起こって急展開していく構造が上手く読者をひきつけていて感動を誘うように思えました。第2回課題でもそうでしたが、死を扱う中でシリアスに寄り過ぎない範囲の喪失感を上手く作り上げていて驚きます。また盛り上がりを演出するアイテムも非常に日常的なものばかりで、読んでいる人間にとって物語を身近に感じることが出来るように思えました。

 ぼくがこの等身に慣れていないこともあって、初見の時『あの子』は『あの子』という生物だと思っていて、6ページ右上の『デート楽しんでくださーい』の台詞を少し考えてしまいました。また、主人公の造形として瞳が小さいのと口が無いのとで、絵だけを見ていくと表情の変化が少し弱めに演出されているのかなぁと感じました。おそらく第1回課題で米代さんに指摘されていたのと似たような問題点だと思います。今のままだと大切な人を偲びながらも表情が変わらない、少し怖く読めてしまう場面があるように感じました。

 16ページの手紙の部分なのですが、このページ全体で文字数を抑えようとコマが構成されていてとても読みやすかったです。ただ、それでもまだ少し手紙の文字が多いように感じてしまうので、右上コマで見えている『ちく天くんへ』を手紙では省く等、出来るだけ1コマに集まる文字量を減らしてみたらもっと読みやすくなるのではないかと感じました!

 こればかりは完成稿でどのように演出するかにもよるのですが、今回のネームの冒頭や第1回の完成稿と比べ、物語を盛り上げていく中盤ではコマ割りがかなり細かく、回想シーンも数度と繰り返されているので混乱やストレスをいかに少なくできるか、難しいところだと思います。

 雰囲気の操り方がとても巧みで、読者が必要以上に落ち込むことのないまま死や喪失など、ある種過激な感情の動きを体験できる、とてもおもしろいマンガでした!

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『僕に青春はいらない』作者:つまようじ

 学校で人気者の王子と日陰者の主人公とが対比させられながら物語が進んでいくので、キャラクターの輪郭が非常につかみやすかったです。またストーリーが展開していく中で、4ページの見開きなど、読者に驚きを与えるような場面で大ゴマが使われていてテンポよく読むことが出来ました。8ページの静寂に包まれた中で二人の顔が赤面していく演出など、非常によく描けていて緊張した雰囲気が画面から伝わって来るようでした!

 全体的にコマの配置が縦横で揃ってしまっている部分があり、少し視線誘導の滑る感じがありました。10ページなどは1コマ目の吹き出しが縦で揃ってしまっていることとに加え、吹き出しが顔から遠いことでヒロインの表情が少し読みにくい印象があります。今回はとくに読み味を損ねるほどに気になったわけではないのですが、見開きに対して右側に配置されるページ(偶数ページ)の左上に断ち切りコマを持ってくる際には少し慎重になった方が良いのかなぁと感じました。ノドで絵が隠れてしまうという問題もあるのですがここに顔のアップが入っていると、右上のコマへ視線を動かす前に、断ち切りに描かれた顔を見てしまう誘導になることがあるので少し気を付けた方が良いのかもしれないです。

 3ページ最終コマなどでは吹き出しが上揃えになっていても、キャラクターの顔が吹き出しに挟まれる位置で上下に配置されているため、過不足なくキャラクターへ視線が誘導された後に『やぁ。また会ったね。――』の吹き出しへ上手く視線が動くように思えました(モノローグの『ああ… 帰りたい…』も、左ページのスミに配置されているので問題なく誘導されました)。

 8ページ、本当に素敵なページなのですが、ここまで描いてくれるのであれば1コマ目をもっと大胆にアップで読みたいと思ってしまう……! 二人の強烈に近い距離感を強調するような形で顔付近のアップを描いていても良いのかなぁと感じました! このページ、本当に良い……。

 斜に構えた思春期の男子中学生が不器用ながらも他者と関係を築き上げようとトライする物語が、非常に優しい空気の中で描かれていてとても心地よく読んでしまいました。冒頭のギャグテイストも単に読者の緊張を取る装置として機能していて、ネーム全体をギャグに見せる程強いものではないし、そこで描かれていることがきちんと二人のメインキャラクターを描くことにつながっているので良いバランス感覚だと感じました。このお話を読むことが出来てとてもうれしかったです!!

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『樹海でボーイミーツガール』作者:畑こんにゃく

 第2回でも書いたことですが、まさしく想像力の羽ばたきとでも言うべき奇想天外な導入に迷わず読み切ることを決めました。主人公が今まさに死の淵に立たんと覚悟を決めたところに予想外の角度から刺激を受け、思わず小人を助けてしまったところから始まる物語は不思議な温かさがあり、元気が湧いてくるような読後感でした。このような入りで来るといろんな表現を受け止められるような気分に持ち込まれ、スムーズに読み進めることが出来ました。

 小人が暴れて縄を切ろうとするシーンや、小人を助けた後で異変に気づき、手当てをするべく家に帰るシーンがとても面白かったです! ただ、後者についてはもう少し分かりやすい前振りにした方がより唐突感を減らして受け止められるのではないかと思いました。現在の前振りは3ページ右上の『寒いの とっても』だと考えたのですが、コレだと台詞で訴えるだけになっているようなので、記号として体が震えているような曲線))を入れるなどして、視覚的にもパッと分かりやすい表現がされているといいのかなぁとか、思いました!

 他には8ページ右下『僕のことより、君はっ…』は、主人公が自分のことから話を逸らそうとしている場面だと受け取ったのですが、そうだとするのなら主人公が取り繕うとする間合いのようなものを差し込んでも良いのかもしれません。

 9ページの吹き出しなのですが、読んでいると書き分けがあるように見えてしまいました。初めて読んだ際には、二重丸になっている台詞が主人公のモノで、単線になっているものが小人のモノだと誤解してしまって少し混乱してしまいました。

 10ページ、『いっぱい食べて元に戻らなきゃ!』などの台詞は、普通のマンガでは「おいおい!」と突込みを入れたくなるようなものなのにこのネームでは、小人が明るく振る舞っているためか不思議と「この子ならそう考えてもおかしくないか」という説得力があってとても面白いです。このページの下段に入っているモノローグと吹き出しがそこそこ横一直線で並んでしまっているのでここの配置はもしかするともう少し動きのあるものにした方がコマ全体を大きく使えるのかもしれません。

 小人が歯磨きをしてくれるところなど、ある種のフェチズムを刺激するシーンもあり、本当に興味深く読み進めて終わりまで連れていかれてしまいました。この感覚を言語化できなくて非常に申し訳ないのですが、このネームには不思議な魔力というか、何故だか分からない妙な説得力があって多くの部分を疎外感の無いまま読んでしまいます……。是非、この想像力を押さえつけることなく、次のネームを作ってほしい! そしてそれを読みたいです!!
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『魔女のお点前』作者:pote(ぽて)

 この絵柄とキャラ付けならどこまでの嘘と大胆さが許されるのかの塩梅を良く分かって描かれているような印象があり、上手くキャラクターと物語展開の距離感を保っているなぁと感じました。着かず離れずのまま、狂言回しのヒロインをどのタイミングで踏み込ませるか……。すこし平坦な進行ではありながらも、その飛躍を可能にするためのおぜん立てが非常に丁寧で読者としてガードの緩んだところへ空かさずパンチを食らってしまったような感覚を持ちながら読み終えました。背景の書き込みについても第2回講評で言われたことを適切に行っていて流石です。

 漫画全体の質が高い反面、冒頭の1コマ目が結構気になってしまいました。右断ち切りで始まった上に、横書きの漢字『茶道部』が読ませるような大きさでコマの左端から見切れる形で描かれており(しかも距離的に2コマ目に書き込まれたモブの頭が見えてしまう)、視線の動きが一度左端に寄ったあと文字を読む流れで右に振られ、立ちきりだからと紙の端っこまで視線をやろうとしたら特に何も書き込まれていないまま「あり?」と肩透かしを食らってまた左に視線を戻しながら2コマ目を読み始める、という動きになってしまい、少し煩雑に感じてしまいました。あと、1ページ下段のバケツが今の描き込みだとパッとバケツに見えなくて、「え、茶碗にモップ? いや、茶の道具か……?」と、一瞬ではあるのですが迷ってしまいました。

 細かくはなってしまうのですが、15ページの台詞回しに奇妙な感覚があって、下段真ん中のコマで『……って わかるかな』といった後にすぐ『……て』と来ているので同じリズムが繰り返されていて多少座りが悪いように感じてしまいました。2ページの下段で展開されるモノローグの配置も、最終コマに入る『素晴らしいデス!』の真下まで伸びてしまっているために、グンッと真上に引き上げられるような視線誘導になってしまっているのが気になります。それと、1ページ単位での画面作りという観点からで見ると全体的に絵だけのコマをもう少し増やしても……、良いのかも……?

 日常でのトラブルについて、ほんの些細な――それこそ手を伸ばせばそこにあるのではないかと思ってしまう様な小さな――非日常によって解決の背中を押されてしまう。まさしくマンガという『非日常』に触れて、人々が少しばかりでも善い生活を送ろうと思ってしまえるような在り方そのものを描いているネームだと思いました。とても面白かったです。本当に面白かった……。

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『ズッ友。』作者:片橋真名

 思い人にとってはなんて事の無い身体的接触……。意識してはいけないと思う程かえって強く自覚してしまう。そんな揺れ動く心を抱えながら、表に出せない感情と葛藤する様子が緊張感をもって描かれていたので楽しく読めました!

 1ページの3コマ目や8ページの2コマ目は、場面説明としてきちんと機能している反面、少しキャラクターのサイズが小さいように感じました。トーンの使い方などで対応できる部分だとは思うのですが、8ページの方はモブキャラクターの顔の方が大きいことに加え、主人公にもモブにも表情が描かれていないので情報の重さが少し食い違っているように感じてしまいました。

 4ページの『独身でも幸せになれる―――― そうだったらいいのに。』はなんとなく意味が解る気はするのですが、今回のネームに描かれていることだけだとと少し曖昧さが残ってしまう印象を受けます。「主人公はヒロインと一緒にいたい=結婚しているような状況になりたい。けれどそうはなれないから独身でいて、それは理想の状況が訪れないことの証左であるので独身であることが翻って理想の否定になってしまって幸せになれないのかなぁ?」などの想像はできるのですが、現状のネームに描かれていることだけだとどういう意味の表現なのか掴みかねるように感じました。また、それもあってか冒頭で4ページ使っている割には本題と関わってこない情報が多くて、始めの4ページは少し間延びした感じがあります……。

 13ページ『こんなの普通じゃない――――この気持ちは』の演出は12ページの強烈な接触体験を一気にメンタルのレベルにまで引き上げるめちゃくちゃグッと来るシーンでとても良かったです! ですが、過去の回想から現在へ戻ってくるのが少し性急な印象があり、もう少し余韻を残しながら当時のように無邪気さを残したままではいられない、現在の物憂げな状況へフェードアウトしていく間合いが欲しいなぁと感じました。後に続く『はい起きてくださーい』の過剰さがとても美しく描けているのでそこをもう少し引き立てて欲しいなぁ……と!

 10~12ページなど、主人公が本当にこの子に魅了されているのだということが伝わりすぎるほどに伝わって来てしまい、すごく感情を動かされながら読みました。単にぼく好みなテイストだったということなのかもしれないですが、非常にドキドキしながら読ませていただきました! ありがとうございます!

 (そして今となってはどうしようもないのですが、ネームアピールで『さやわか』が『さわやか』になっています……!)

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『ラッキーサーティ』作者:くたくた

  ひょんなことから学年でも注目株の優等生とデートをすることになったものの、噂におびえた結果、奇妙なデートが展開されていく様がとても面白かったです。そんな気軽さの中、テーマ性のある話題が平行して語られていて物語として非常に読みごたえがありました。見せ場のシーンでは女の子を可愛く見せようという意思を感じる作りになっていて、どこに着目すれば良いのかが分かりやすい……。

 第2回講評会を受けてのチャレンジだと思うのですが、全体的に文字量が多く、少し構えて読み始めなければならない感覚がありました。ななめ読みをしながら絵を追いかけていくだけでもストーリーを掴むことはできたものの、やはり1ページあたりの滞在時間が長く、読んでいてだんだんと疲れてしまう印象がありました。

 吹き出しの扱いに関して枠外にはみ出すものと、枠内に収まるものがアトランダムに見えてしまって読むのに気が散ってしまうタイミングがありました。基本的に文字量が多いのでそういったことから思考が止まってしまうと、なかなか読み進めるのが難しかったです。一方でスマホを使うギミックのある5ページなどは文字を読ませるための演出として必要な情報だけにフォーカスを合わせてズームしていたので、とても読みやすかったです。

 全体を俯瞰した時に15ページ以降から少し情報を読み取るのが難しくなったように感じてしまいました。それまでとコマ割りが変わり一番の盛り上がりだというのは解るのですが、14ページからの流れで『か、かわいい…』→『かわいくねー!』→『何でもできてかっこいいなぁ』がポンポンと進んでしまっていて、この変化を感じる間合いが用意されておらず読者としてついていけなくなってしまいました……。また、15ページの『かわいい振る舞いができないんだよね…』が女の子の台詞なのはなんとなく察せられるものの、重要な転換点のはずなのでもう少し大きく大事なコマとして(なんなら表情や演技と共に)扱われていても良いような情報だと思いました。

 ヒロイン(女の子)を見せようとしてネームを作られた際に、物語の流れに沿って可愛くあるべきシーンをきちんと可愛く描けていて(14、16ぺージ最終コマ、17ページ冒頭コマなど)うまく手綱の握られたマンガだと感じました。文字量は多いもののそれを読みさえすればきちんと物語や展開を不足なく追うことが出来たので、とても楽しかったです!!

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『屋上の天使』作者:柴田舞美

  冒頭から主人公の方向性が分かるようになっているのと、ミステリアスでありつつ力ある大ゴマを見せられることで物語に引き込まれました。全体を通して些細な芝居で主人公の性格やあり方が表現されていて、思わずキャラクターの生活を想起してしまうような感覚がありました。3ページの扉を開けるシーンや4ページの歩き方、7ページの笑い方など、キャラクターに合わせて振る舞いが描き分けられていて「生」を感じます!

 ネームアピールでも気にされていましたが、1ページと2ページの場面転換は少し分かりにくさがありました。第1回課題、第2回課題と見ていると場面転換の表現が多少控えめになる傾向があるのかなぁと感じました。6ページの『夜』も初見の際には見落としてしまっていて、昼の話だと勘違いしたままで読み切ってしまいました。ここの『夜』はもう少し下に配置されていても良いのかなぁと思います。

 また2ページ最終コマの『あの時の天使!』にはちょっぴり違和感を持ってしまいました。冒頭のシーンがそれなりの距離感をもって描かれていたので、廊下を歩いていた天使にふと気づくことが出来るのかなぁ……と。ここは日常に馴染めていない主人公が「天使」という非日常に誘われる重要な場面だと感じたので、主人公のリアクションをもう少し描いて見せるくらいのあざとさがあっても良いのかなぁと思いました。感情を見せるコマがきちんと挿入されているのは読者としても分かりやすくてとても助かるのですが、その手前や後に変化を感じるリアクションのコマがあるといいなぁと感じます。

 月産ページ数に限界があることもあってか中盤以降少し展開が強引になっているような印象を受けてしまいました。3ページから4ページへの流れや5ページなど、「もう少し説明してほしいかも」と感じていたら急に文字が増えて説明過多に見えてしまうなど、何とか風呂敷をたたもうとあくせくしているのが伝わって来てしまう感覚があります。また、後半になると台詞に違和感のあるところがあり6ページの『やっぱり天使なの……?』は縦長の吹き出しで良いのか、このセリフが出てくるのはこの間合いで良いのか、などの疑問を感じてしまいました。

 絵の演技がとても個性的であまりぼくが読んできたマンガでは見かけない振る舞いをしているのですが、それがきちんと外連味として機能していて読み進めるのがとても楽しかったです。2ページ左下のコマや7ページ2コマ目のミステリアスな顔、8ページ3コマ目の『へへ…』顔などは本当に魅力的でした!

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『ヨシノの黙示録』作者:田山

 キャラクターと舞台設定のズレを冒頭から非常にうまく使っていて、このズレはこの後どうなるんだろう?というすごくシンプルながらも強烈な興味で最後までネームを読んでしまいました。「ボク(読者)は知っているけど、この子は知らない」という緊張感の扱い方や、ヒロインを魅せるという課題の中でこの設定を持ってきたカンの良さに驚きます。あとキャラクターの図像が本当に可愛い。前振りなく『吉野さんは情弱なので――』で一番難しい場面を成立させてしまっているのに少しだけ「いいのかな?」といった感覚があったにはあったのですが、ネーム全体の雰囲気がこういう感じなので「いいのかな」とも思います。

 全体的に吹き出しの配置が少しワンパターン(右上からストレートに左下へ向かうようなパターン)になっていたり、読みにくい配置になっていたりするのかなぁと感じました。特に1ページは読みにくい印象がありました。まず、1枚の紙の中で絵が変に左に寄りすぎているなぁと思いました。それによって吹き出しの上下や左右が揃い過ぎていて、あるいは妙に吹き出しが離れていて、どう視線誘導されたら良いのか混乱するような感覚を持ってしまいました。

 『二日前』→『次の日』と回想から回想へと繋がる演出は少し慎重な取り扱いが必要なのかもしれません。特に今のネームでは『次の日』の回想がどこまでなのか、冒頭の日に戻っているのかどうかが分かりにくいように思えました。

 触れるか迷う所なのですが、今回のネームは今までのモノと比べても特に熟語の扱いが抽象的で何を言っているのかよく分からない言い回しが多いように感じました。場合によっては単に日本語の理解として間違っているようなところもあり(岸田君は『抗わない姿勢は滅びに似つかわしい』と言ってるだけで、8ページ『(もしも岸田君の言う通り)平穏を望む心が滅びをもたらすのなら、』は明らかな曲解に思えます)、読者として置き去りにされている印象を受けました。この曲解や誤読が作者にとって意図的なもので、長谷川君がそういうキャラクターとして造形されているのが読者に分かれば良いのですが、少なくともぼくは今回のネームからそれを感じ取ることが出来ませんでした。

 ネームの中でヒロインに対する主人公の考えやリアクションがきちんと描かれているので、読者としてもこのヒロインをどういう方向付けで読んでいったら良いのかが明確で、ストレスなくヒロイン像を作ることが出来ました。同じ意味で、かませ役の岸田君がすごく機能していると思います。毎回、読者として「お、このネームは何か変なことをやろうとしているぞ!?」というワクワク感があって読むのが非常に楽しいです!

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『あなたで私が見つかりそうな保健室で』作者:桃井桃子

 『先生 ごめんなさい』の号泣で始まり、思わず「え、え? 何が?」とページをめくってしまったのでまんまとしてやられました! あと、『ねぇ、それよりドーナツ好き?』が本当に「それより」で好きです。保健室登校生徒という、場合によっては必要以上にセンシティブになってしまう設定を扱う上でコミカルな雰囲気が選ばれていてすごく上手い選択だと感じました。その難しい部分に自覚的なのもすごいアンテナだと思います。

 一方でその雰囲気を保つためか(あるいはそもそもそいうキャラ付けなのか)、会話や展開が非常に飛躍しているような印象を受けてしまい、どういう物語なのかを追うのが難しかったように思いました。例えば、4ページの頭3コマがどういうことを感じ取ってほしいコマなのかが分からず、先生のフォローもなんだかよく分からず(ここまでの展開ではそこまで変なことを言いだす先生に見えなかったという意味です)、『春尾先生』という、物語が始動する台詞の出され方に違和感を感じてしまいました。

 重要な台詞や展開のある場面で上手くかみ合わない感覚がどうしてもあり、他には5ページや7ページなどに違和感がありました。特に5ページの『あ、ありがとう 明雪さんと一緒にいただくわ』は3ページから前振りされている『……先生だから』と10ページの『そうね 先生は「みんなの先生」よ』に対して食い違うような台詞に見えてしまいました。前後やキャラクター設定と矛盾の少ない台詞なら『あ、ありがとう みんなで食べましょうか』の方が普通に思えてしまい、あるいは「急に都合の良すぎるモブキャラが出てきたなぁ」と我に返ってしまい、なかなか物語に入り込むことが難しかったです(この違和感は百合アンソロジーをあまり読まないことに起因しているのかもしれません)。

 9ページからの展開はさすが百合を描き続けている人だ、と感嘆するほどに演出や要素の組み合わせが巧みでコマ割りを使った時間と心情の動かし方や、表情の選択にどんどん引き込まれていきました! 第1回ネームの時もそうでしたが、身長差カップリングの扱い方が本当にうまくて、魅せるべきところでドーン!と身長差が生かされるので思わずニヤニヤしながら眺めてしまいます……。ペン入れした際にキャラクターがどういう雰囲気になるのか、背景の処理がどの程度行われるのか非常に気になります……!!

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『背中』作者:うめていな

  1ページ毎にきちんと発展が用意されていて、めくりの気になる作りになっているなぁと思いながらも思わずページをめくってしまいました! また、彼女に背中を刺された彼氏など扱っている話題もキャッチーなもので、興味を引かれたまま読み進めてしまいました。

 キャラクターの心を動かすコマ運びが非常に巧みで、言葉の裏側に隠れている心情が(あるいは、言葉の裏に何かがあるという情報が)きちんと読者に分かる形で提示されているためにグッと台詞に引き込まれます(10→11ページ、12→13ページなど)。さらにそこがめくりと重ねられていて、はやる気持ちをそのままページを繰る動力に変換されているような巧みさがあるように思えました。

 読んでいると、幹となる話が途中で少しブレてしまっているのかなぁという印象がありました。冒頭4ページと終わり4ページは「男女の(あるいは二人の人間の)関係性のあり方」の話として共通していると思うのですが、間に挟まっているのが「怖くて変な女性に振り回される話」に見えてしまいました。これが上手く前後と接続されていれば浮いている感覚も弱いのですが、遊園地での話は「あやのさん視点」でしか描かれておらず、それを涼さんがどう受け止めているのかという視点は15ページの『だって』以降で急に回収される構造になっているために、主人公が涼さんの表情から受けたのと同じレベルの説得力をぼくが上手く掴みきれず、「え、いやいや、満足そうに笑ってるっぽいけど、それ本当にそうなの……? 背中刺されて人の家に飛び込んできてすぐに帰んなかったし、普通に困ってんじゃないの……?」と思ってしまいました。主人公が一方的に悟る様な形で、あやのさんと涼さんの関係性が肯定されるのではなく、「二人の間ではそれが肯定的なものとして確かに認められているのだ」という描写があると読者としても、思わず拒絶してしまいたくなるような反応を一度引っ込めて、二人の関係性やあり方について受け止めることが出来るのではないかと感じました。

 

 また、15ページ下段の『それにあやのさんは お仕事もすごいし…』という台詞は、「いきなり何の話だろう?」と少し疑問を抱えてしまいました。これ以前には仕事の話が出ていないはずなので、改稿の際につながらなくなってしまった部分でしょうか……? 白黒反転ゴマから一気に物語が締まっていくシーンの直前だったので、余計に気になってしまいました。

 扱おうとしているものが非常に繊細かつ重厚なのでとても読み応えのあるネームでした! 絵としても10ページの瞳や、12ページの2コマ目、陰のあるような最終コマなど非常に魅力的な場面が多く、迫力を感じながら読みました。どうしても文字だけでは表現しきれない部分を扱おうとしていると思うので、こういった顔や瞳を描けるのは優れた武器のように感じます。ペン入れした際にこの迫力がどうなるのか非常に楽しみです~!!

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『アタシ、キレイ。』作者:高井焼肉

 口裂け女とユーチューバーという奇天烈な組み合わせそのものが魅力的で、読後に強い「やられた!」感がありました。冒頭のホラー展開と強烈な顔のアップで読者をミスリードしつつ、めくりでドンガラガッシャン!とひっくり返されたのも爽快でした。2ページの台詞にしても、「自分についての評価」という多数の人が気になってしまう要素を持ってきていて選択の巧妙さを感じます。

 出だしの裏切りがとても強い引きになっている反面、初見で読んだときには2ページの女性が誰でいつどこから来たのか分からず読み返してしまいました。この女性は1ページで登場しているものの、比較的小さく描かれていて顔も見えなかったためにモブだと認識してしまい、普通に顔アップの口裂け女がメインとなるホラーとして読んでしまったため、2ページについていくことが出来なかったのだと思います。冒頭1コマ目のカメラが180度回った位置に来ていたら誤読しなかったのかなぁと感じます。

 強い暴力的な言葉を選んだ際に平仮名をチョイスしているところや、直後にシリアスを遠ざけるように『ぶ、ぶ、ぶ…』とコメディチックな演出を入れるバランスのとり方が上手い……。

 ネームアピールに書かれていた狙いの通り8ページが非常に説得力であふれている反面、ぼくとしては、このアプローチがあまりにも現実的だったことで口裂け女が「口裂け女っぽい人」なのか「本物の口裂け女」なのか混乱したような印象がありました。一応ネームの中でも口の両端に薄い線が書き込まれてはいるのですが、キメ場である9ページ『これが…アタシ……?』の全身絵でその書き込みが無いなど、描かれ方にブレがあって初見時には疑問を抱えたまま読み進めてしまいました。

 絵がすごく上手で、怖い顔がきちんと怖くかけているし綺麗な顔もそうかけているばかりか、可愛らしいシーン(10ページの2、4コマ目)では非常に可愛らしくキャラクターを描けているので読んでいて絵の力によって心の動かされる感覚がありました!

 タイトルとノンブルは入れ忘れでしょうか……?

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『烏賊とギャル』作者:ヤノナナミ

 第一声が『はぁ…激ヤバ…』なのに痺れました。場合によってはこの勢いで回れ右をするのかもしれないのですが、ぼくはこのセリフと唐突なイカによって「このマンガ、読むしかない!」ってなりました。基本的にアイデアがすごく面白いので、「この作者は何を見せてくれるんだろう」という期待感が持続して最後まで読んでしまいました。

 あたりめを見て嘆くイカや、スミをかけられてタコになる女の子など、奇抜な展開がテンポよく進んでいくので面白かったです。スミを吐いてたくせに習字の時は脇に硯がる場面などは絵面そのものが面白い! 日常に非日常が溶け込んでいく話だと思うのですが、この絵とこのテンションであれば結構すんなりと読むことが出来るんだなぁと驚きました。

 現在のネームは両断ち切り(コマの左右が線で区切られていない形式)で描かれていますが、これはウェブ媒体に載ることを意識した作りなのでしょうか? ネームアピール文がさっぱりとしたものだったのでもう少し書いても良いのかなぁと感じます。どんなお話にしたいか? ということで、『謎のイカを拾ってしまった女の子と、イカの日常話にしたい』と書かれていましたが、そういう意味ではきちんとできていると思いました。一方で、課題文からなぜこの話にしたいと考えたのか、そういう話を作った結果何を読者に伝えたかったのか? などが現在のアピール文やネームからではいまいち掴みかねるところがありました……。

 第1回ネームの時もそうでしたが、基本的に発想そのものが面白く、それだけで読みたいと思わせるようなものを描かれるのでとても楽しく読むことが出来ました! 是非、一度完成稿を見てみたいです!!

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『リードをねらえ!』作者:横たくみ

 冒頭から次ページに謎を残す作りになっていたので思わずページをめくってしまいました。加えてかなり早い段階でメインキャラクターの二人が大ゴマで登場するため、誰に注目すれば良いのかが明確でとても読みやすかったです。また8ページから9ページへの流れは滑らかでありつつも空間として温かみがあり、すごく心地の良いシーンに思えました!

 1ページから明確にキャラクターの感情が表現されていたり生活感の分かる画面になっていたりして目が楽しい反面、少し文字量が多いのかなぁとも感じました。彼女の台詞で伝える情報を一つ減らしても良いんじゃないかなぁ……と。おそらく、ここで一番重要な情報は「主人公がイラついていて、必要もなく大きな音で楽器を掻き鳴らしている」ことだと考えました。なので、場所の情報や手伝いの情報はもう少し短い言葉で表現していても良いのかもしれません。例えば「カナデ、私んちでうっさい!」など、出来るだけ文字数を減らしていくと、より少ないストレスで情報を提示できるのではないかと思いました。

 感情を絵で見せるのがとても上手で、きちんと伝えたい感情が読者に伝わっているように感じます! 特にキメのシーンはすごく力があって魅力的です。感情やキャラクターを絵で伝えるのがすごく巧みなのだと思います。一方、字で説明しようとすると文字量の多くなる傾向があるのかなぁと感じました。特に今回のネームでは間を表す際に三転リーダ(…)が多用されているような印象がありました。もう少し絵で説明する部分や、絵で間を作る表現を増やしても良いのかもしれないなぁと感じます。例えば、6ページの3コマ目ではヒロインの表情を見たいなぁとか、11ページ→12ページのところではヒロインの決心する間を絵で欲しいなぁとか感じました。

 たまに言い回しで気になるところがあって、今回の場合はとりわけ4ページの4コマ目で『あいつ』が二回繰り返されるところは違和感がすこし強かったように思います。

 前からそうでしたが、基本的にコマ割りがしっかりしているし、絵の力もはっきりしているマンガを描かれるので非常に読みやすかったです。独特の空気感を描くことも出来ているのでとても暖かな雰囲気に包まれながらマンガを読むことが出来ました! また次のマンガを楽しみにしてますねっ!

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おわりに

 全提出作品へコメントを書き終えました! ふ~……。とても楽しかったです。

 前回も書いたことですが、皆さん、当たり前のようにパワーアップした作品を提出してくださるのでどんどん読みやすくなっていますね。第3回に当たる今回の課題は第2回と被る部分もあったためか、ヒロインの扱いやその見せ方という部分で各々違いはあったモノの「読みやすさ」や「導入」の部分ではどの作品も作品なりに気を配ってあるのが分かったので興味深かったです。

 今回の課題に対してぼくがきちんとアプローチできていない部分にページ毎の「画面作り」があるので、講義ではこの部分についてどう触れられていくのかが今から気になります!

 それでは、また次の記事でお会いしましょう~。