とらじろうの箱。

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【ひらめき☆マンガ教室】第2回ネーム講評会 まとめ編【第4期】

第2回ネーム講評会を終えて

はじめに

 第2回ネーム講評会は、現在『漫画アクション』で『ハニワット』を連載している武富健治さんが行ってくれました。今回は武富さんが講義と講評会を通してお話ししてくれたマンガの描き方、捉え方のようなものに焦点を当てて書いていこうと思います。

 以下に要点をまとめました。

  1. ネームはコミュニケーションなのだから『伝わる』ように。
  2. 『冒頭』にこそ注力せよ。
  3. 主人公の『受けの芝居』を忘れるな。
  4. 中間のコマを使いこなす。
  5. 言葉にも十分な注意を!

 ほかにも『リアルであることとリアリティがあることは違う』という話や、『読者に伝わらないときの2パターン』の話など様々なトピックが話題になりました。マンガを描く上でも、マンガについて考える上でも大事な視点を供給してくれる非常にボリューミーな講義だったと思います。

 講義後には武富さんご本人がTwitterで講義内容をまとめてくださるなど本当にアツい回になったのではないでしょうか。

『ネーム』の捉え方について

  講義中、何度も取り上げられたのが『人に見せるネーム』の捉え方についてでした。ここで言う『人に見せる』というのはいわゆる担当編集者との打ち合わせを念頭に置いてのことだと思います。

 武富さんは『ラフすぎるネーム』という言葉で言及されていましたが、提出されたネームの多くは「誰が誰と何をしているのか」あるいは「誰がどんな表情をしているのか」、「どれくらい迫力のあるシーンなのか」などが伝わらないものになっていた、という話でした。もちろん、完成稿と同じレベルで絵を入れたり、背景を入れたりして欲しいということではありません。

 ネーム段階ではその雰囲気だけでも良いから読んでくれた人(≒編集者)に伝えないと、話し合いとしてもったいないということです。

 ネーム用のデザインを作ってでもいいからどの登場人物が入るのか分かるようにする、柱の線一本で良いから引いて教室の話だと分かるようにする、などこの程度の書き込みで構わないからネーム段階で伝わるようにすると、より高度な打ち合わせをすることが出来るとのことでした。

冒頭がすべてを握る

 第3回課題とも関係してくる話ですが、マンガは読んでもらえないと意味がありません。そして読んでもらえたとしても、冒頭で躓いてしまうと読者はマンガに乗り切れないことがあります。どんなに素晴らしく楽しいマンガであっても冒頭で読者が躓いてしまえば、多くの場合は読んでもらえません。

 読者は『誰と誰がどこで何をしているのか』が分からないと非常にストレスを感じます。そしてストレスを感じるとそこで読むのをやめてしまいます。だからこそ冒頭は非常に大切で、いかに早い段階で『誰と誰がどこで何をしているのか』分かるようなコマを入れた方が良いし、まず考えるのはそのことである、という話でした。

 扉絵(タイトル)をどこに置くかというのも同じように重要で、扉絵をどう見せるのかというのも早い段階で考えるべきことになります。

『受け』の芝居を入れる

 ここで言う『受けの芝居』というのは「リアクション」と置き換えても良いのかもしれません。講義を通して何度も指摘されていたのは『出来事が描いてあってもそれに対する主人公の「受け」が描かれていない』ということでした。

 これは『読者に伝わらないときの2パターン』の話とも大きく関わってくるので、まずはそちらの説明をしたいと思います。

 講義の中では伝わらない場合には以下の2パターンがあると言われていました。

  1. 読者がぼんやりしている
  2. 読者がいろんな選択肢を考えてる

 そして『受け』の芝居に関わってくるのは2つ目の方です。

 ある出来事に対して『受けの芝居』がないと、読者は主人公が何を感じたのか、どのような顔をしたのかを一生懸命に想像してしまいます。その結果、描こうとしたことや伝えようとしたことがきちんと伝わらなくなってしまうことがあるのです。

 伝えたい、大事なシーンだからこそ、キチンと主人公の『受けの芝居』を描くことが大切だということでした。

 1つ目のパターンの場合には読者に情報を与えることが、二つ目のパターンの場合には読者に情報を確定させてあげることが大切になります。

中間のコマを上手く使う

 今回提出された作品に多く見られた傾向として『小さすぎるロングショットが多かった』というものが指摘されていました。場面説明として引きゴマを使うのは良いとして、そこに描かれる絵が小さすぎるという話です。キャラクターが載っているにもかかわらず、小さすぎて何をやっているのか読み取るのが難しいのです。加えてアップと極端な引きだけで構成されていると、画面としてのマンガも単調になってしまいます。

 そこで武富さんは『主要登場人物全員が、舞台背景付きでどういう位置関係で会話などしているか分かるような中くらいのコマを入れる癖をつけるといい』と提案してくださいました。ここで言う『舞台背景付きで』というのは、例えば教室なら、柱の線一本や連絡黒板一つのことです。それが描いてあるか否かで読者のストレスや理解は格段に違ってきます。

言葉にもきちんと注意を払うべし

 文字を読むというのは思った以上にストレスがかかることであり、マンガを読むときにはそのストレスが一層目立つようになります。

 読者にとってストレスのないマンガ、読者に伝えたいことがきちんと伝わるマンガを作るためにもいかに負担なく文字を読んでもらうかというのは大事なポイントになるということでした。

 特に今回の提出作にはスマホなどのギミックを用いて、文字を読んでもらうことでメッセージを伝える、といった作品もいくつか見受けられます。もちろん、『言葉』というのはギミックだけではなく、台詞やモノローグなどすべてを含みますが、ギミックとして文字を使う場合には特に注意深くなる必要があるはずです。

 分かりやすいのは指示代名詞の取り扱いなどですが、マンガを描く上で特別気を付けなければならないのはキャラ同士の掛け合いであるという話も挙がりました。つまり、マンガとして描かれて通りの良い会話と現実世界で通りの良い会話は実は違うのである、という話です。リアリティを重視し、いかにも現実で使われていそうな言い回しや言葉を使うと、読者には何が何やら分からない会話として映ってしまうことがあります。

 というのも、現実世界で肉声や表情の変化を交えながら行う会話は、文字情報以上にほかの情報であふれているからです。現実では多様な情報と共に会話コミュニケーションが成り立つ一方で、マンガではある一つの表情と文字情報だけで会話を読んでいかなければなりません。そのために、現実で行われた会話そのものをマンガに移植しても上手く読めなくなってしまう場合があるという話でした。

おわりに

 今回の講義は、武富さんがマンガの描き方を丁寧且つ熱心に語ってくれた一方で、さやわかさんからは「ひらめき☆マンガ教室」の使い方を教わったような講義だったのではないでしょうか。冒頭でも触れましたが、武富さんが再三繰り返して教えてくださったことは、ご本人のツイッターでスレッドにまとめてくださったので随時振り返るとより深い学びがあるように思います。

 さやわかさんからは『お話の終わりをどうしようか悩む必要はない』というお話がありました。ぼくは「お話の良しあしを悩むよりは、まずは自分が一度描こうとしたことをきちんとソレとして伝えられているのかどうかに注力した方が良い」ということとして受け取っています。たとえ「より良いエンディング」を思いついたとしても、それを伝える術がなければ意味がなくなってしまいますよね。

 また、『ひらマンの講義で最高傑作を出す必要は無い』というお話もありました。これは『ひらマンは「失敗」しても良い場所である』という話ともつながっているように思えます。ネーム講評会では毎回選出があり、完成稿講評でも毎回金銀銅を選びます。そのために、ある講義で一番になることへ視点が移ってしまうのも非常に良く分かりますが、それよりは自分自身がひらマンを通してどう成長を積み重ねていくかに取り組んで欲しいのだと思います。

 9時間に及んだだけあって、非常にタフな講義となりました。

 今回の講義は特に濃厚で、それこそマンガを描くのであれば一生考えて行かなくてはならない問題を熱心に取り扱っていたのではないかと感じます。

 それでは、次の記事でお会いしましょう。

 今回の講義を受けるにあたってぼくもハニワットを買いました。非常に面白いだけでなく、描いていることの中にはとても特別なものがあります。それでもストレスなく、エンターテインメントとしてキチンと楽しめてしまうのが恐ろしい……。皆様もよろしければ是非お読みになることをお勧めいたします。